2016 Fiscal Year Research-status Report
乾燥下の光合成:地上進出を支えた新型最強の光エネルギー散逸機構の探索と機構解明
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26440139
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊藤 繁 名古屋大学, 理学研究科, 名誉教授 (40108634)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 光合成 / 乾燥適応 / 光障害 / 地衣類 / 共生 / 乾燥耐性コケ / 光適応 / 物質生産 |
Outline of Annual Research Achievements |
維管束系をもつ高等植物は、乾燥大気中でも光合成をできるが、細胞内まで乾燥すると、過剰光で作られた有害ラジカルによる「光障害」で死ぬ。しかし維管束系を持たない地衣類(藻類/シアノバクテリアを内部共生する菌類)、藻類、コケは、細胞内まで乾燥しても活動停止はするが、強い太陽光下でも枯死せず、濡れるとまた光合成を再開する。この耐性機構を明らかにして、維管束植物の乾燥耐性向上への利用も考えた。 地衣類の多くは、乾燥下で光エネルギーを高速に熱に変換し光障害を防いでいる事を、ピコ秒レーザとストリークカメラによるクロロフィルの蛍光寿命測定で明らかにした。検討した地衣類50種の大部分では、湿潤時には0.2-1ナノ秒の蛍光寿命が、乾燥時には1/10に短縮された。これは光合成色素系内に乾燥で新たに生じた消光物質により、過剰光が有害なラジカルを形成する速度0.2ナノ秒より早く、光エネルギーを熱として散逸させる機構が働く事による。 このような特性を、ほとんどの地衣類(48/50種)、乾燥耐性コケ類の一部(6種)、乾燥耐性のシアノバクテリアNostoc sp.(4種)で見出した。この過剰エネルギー散逸機構には少なくとも4タイプがあり種間差があることも明らかにした。しかし、測定した範囲の維管束植物10種と、水性藻類10種には見られなかった。さらに乾燥耐性と光耐性の関連を調べるため独Wurzburg大学Heber名誉教授(2016年6月逝去)の協力で入手した「陰生」と「陽生」の近縁乾燥耐性コケ2種を調べ、2種の異なる消光機構が乾燥誘導されること、これらは湿潤下で光障害防止に働く非光化学的消光機構(NPQ)とは直接関係ないことを明らかにした。原核光合成生物国際会議(独2015・Aug)、国際光合成会議(蘭2016・Aug)、同アンテナタンパク質サテライト会議(蘭2016・Aug)などで成果を発表し、論文投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
藻類、地衣類、コケ類で乾燥誘導される、過剰光エネルギー散逸機構は、大きく分けて4類型があることを、室温と低温での超高速蛍光寿命解析から明らかにした。今後はこの違いをさらに明確にして、分子機構を明らかにする。当初計画より、研究対象生物と検討対象となる乾燥誘導の消光機構は増え、乾燥誘導される光障害回避機構をより広く研究可能になったので、計画を拡大した。生物分類学的には、地衣類とは光合成をしないはずの菌類中に緑藻・シアノバクテリアが共生した生物であり、その複雑な体制から研究が遅れてきた。培養方法も未発達であり、成長も遅く、天然環境下での採取に頼り、一部は絶滅危惧種でもあるため、これを対象にした研究には限界がある。実際に採取時期、地域、種による相違も大きいことが、シアノバクテリア共生地衣類の顕微分光測定から明らかにしつつある。地衣類の研究と並行して、当初計画にあわせて、栽培環境を制御可能で遺伝子情報も知られているコケ類と藻類での研究を進め、類似の乾燥誘導型消光機構を発見したので、これらを使い、葉緑体を取り出して外部環境を自由に制御できるin vitro実験系の確立をすべく準備をすすめている。このような実験系が作れれば、分子レベルでの消光機構の検討が可能になると期待される。シアノバクテリアから高等植物にわたり広く分布する湿潤下での過剰光エネルギー散逸機構NPQと、乾燥誘導型の消光機構は、かなり違うことも明らかになった。また、本研究の範囲をこえるが、地衣類共生系の概念を応用して、単離光合成反応中心をシリカ細孔内で働かせる半人工の光合成系の作製も進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
地衣類(緑藻かシアノバクテリアが共生)での過剰光エネルギー散逸過程については45種で行った研究結果を論文にまとめる。4種の異なる類型が発見されたので、個々の機構のより詳しい解析を行う。一部測定が終わっている77Kでの蛍光寿命の解析をさらに進めて分子機構の詳細を検討する。特に、これまで良く知られていなかったシアノバクテリア共生地衣類の乾燥耐性について、地衣類内部での共生状態と、取り出して外部生育させた状態でのシアノバクテリアの蛍光特性を詳しく比較する。クロロフィルだけでなく、シアノバクテリア特有のフィコビリン色素からの傾向について、消光が観測されたので、過剰光エネルギーの熱散逸機構を詳しく解明する。 コケ類についても、地衣類でみられた複数の機構との類似関係を検討し、一部の乾燥耐性コケで似た機構を見つけた。さらに、コケ類から単離した葉緑体の乾燥耐性を調べ、試験官内での再現実験系作成を計画している。これを使い、自然環境から採取されたままの地衣類では難しい生化学的解析(原因となる光補修色素蛋白質の同定、消光の分子機構)を進める。この実験系で、既知の、乾燥耐性を示さない種、乾燥耐性を示すが光耐性の弱い種と、強い乾燥光耐性をもつ種間での比較をする。葉緑体を単離して、in vitroでの乾燥光耐性の再現実験系を作成することを試みる。高等植物でも、似た特性を示す2種について研究を進める。これらの結果を解析比較し、乾燥光耐性機構の種間での類似性と違いを検討し、地上進出との関係についても考察する。個別の機構解析の論文数編と、総合比較の論文数編、国際学会などで成果を発表する予定である。
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Causes of Carryover |
地衣類の採取と同定が能率よく進み、当初予定よりも経費が節約できた。蛍光寿命測定装置の保守改善費を予定していたが、ピコ秒レーザ半導体ヘッドの劣化が許容範囲内に収まり、更新を予定より遅らせた。しかし、波長の違う3セットのレーザヘッド(合計300万円)と蛍光寿命測定の心臓部分であるストリークカメラと制御部分(約2千万円)は高額でありともに経年劣化しているので、一旦故障すればこの程度の繰越金の範囲に修復費が収まるかはわからない。ともかく丁寧に調整をしながら使用している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰越金は装置故障などがあればその保守整備に使用し、これが低額ですめば、周辺消耗部品の取り替えに使用する。残りはゲノム関連の実験の生化学消耗品、分光光学部品、成果発表のための国内外学会旅費に使用する予定である。
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Research Products
(13 results)
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[Journal Article] Design of New Extraction Surfactants for Membrane Proteins from Peptide-Gemini Surfactants (PG-surfactants).2016
Author(s)
Masahide Shibata, Shuhei Koeda, Tomoyasu Noji, Keisuke Kawakami, Yuya Ido, Yuichi Amano, Naoki Umezawa, Tsunehiko Higuchi, Takehisa Dewa, Shigeru Itoh, Nobuo Kamiya, Toshihisa Mizuno
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Journal Title
Bioconjugate Chemistry
Volume: 27(10)
Pages: 2469-2479
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant
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