2015 Fiscal Year Research-status Report
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26440141
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
土屋 徹 京都大学, 地球環境学堂, 准教授 (20362569)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | シアノバクテリア / クロロフィルd / 光合成 / 遠赤色光 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に確立したAcaryochloris marinaでのトランスポゾンタギング系を利用して、突然変異体の作出とスクリーニングを行った。1000クローン以上の変異体の色素組成をHPLCで解析したが、野生型と比較して有意にクロロフィルd含量が低下した変異体は得られなかった。また、遠赤色光の利用について差がある変異体についても、これまでに得られていない。しかし、変異体の作出過程で黄色い色を呈した変異体を1株単離することができた。得られた変異体(Y1変異体)のゲノムDNAを単離してトランスポゾンの挿入位置を同定した結果、モリブデンコファクター生合成に関与するタンパク質であるMoaAの遺伝子と高い相同性を示すAM1_5516遺伝子の内部にトランスポゾンが挿入されていた。保持型発現ベクターを利用してY1変異体にAM1_5516遺伝子を導入したところ、AM1_5516遺伝子を含まない発現ベクターを導入したコントロール株では黄色を呈したが、AM1_5516遺伝子導入株では緑色を呈すようになった。一般的にシアノバクテリアでは窒素源が欠乏すると黄色くなること、モリブデンコファクターは硝酸還元酵素にも含まれることを考慮して、Y1変異体をアンモニウム塩の含量を増加した培地で培養したことろ、黄色くならず緑色を呈した。よって、Y1変異体はモリブデンコファクター生合成に関与するMoaA遺伝子(AM1_5516)の変異により硝酸還元酵素の活性が著しく低下したことで培地中の硝酸イオンを窒素源として利用できなくなったため黄色を呈していたと結論づけられた。本結果は、A. marinaにおいて野生型と表現型が異なる変異体を単離し、機能相補により原因遺伝子を同定した初めての例となった。このことは、今後目的とする変異体を単離したあとで、原因遺伝子を同定することが原理的に可能であることを意味する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、トランスポゾンタギングにより作出したA. marinaの変異体の中から黄色を呈する株を単離し、トランスポゾンの挿入位置の同定および原因遺伝子候補の導入による機能相補実験により、原因遺伝子の同定に成功したという進展がみられた。これは、実際にA. marinaで順遺伝学的解析が可能であることを意味する。しかしながら、トランスポゾンの転移頻度が増加する条件を見いだせなかったため、研究計画で予定していた大規模スクリーニングを行うことはできなかった。今後も定期的に変異体と作出とスクリーニングを続けるが、当初計画よりも時間を要する見込である。 また、本研究課題のもう一つの目的である遺伝子ターゲッティング系の開発については、本年度も進展がみられなかった。新奇な実験系の導入など新たな方法を模索して先に進める必要があると考えられた。 以上を鑑みて、現在までの達成度は「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
変異体の作出とスクリーニングについては、トランスポゾンタギングの効率が低いため変異体の作出が律速になっている。また、これまでの検討結果から効率の劇的な上昇は見込めないので、地道に少しずつ変異体を作出しスクリーニングを続けてゆく。 また、もう一つの目的であるA. marinaでの遺伝子ターゲッティング系の確立については、近年多くの生物でその有効性が報告されているゲノム編集に利用されるCas9タンパク質をもちいた実験系の開発に着手している。遺伝子ターゲッティング系のみならず、大腸菌などで報告された遺伝子発現抑制系であるCRISPRiの適用も予定している。CRISPRiはCas9遺伝子などを保持型発現ベクターで導入することで行うことができる。よって、これまでに確立した遺伝子導入系を利用できるため、検討における技術的な問題はない。CRISPRiの実験系が開発されれば、A. marinaで標的遺伝子の発現を抑制することによる逆遺伝学的解析が可能となることが見込まれる。
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Causes of Carryover |
本年度も、トランスポゾンタギングで作出したA. marinaの変異体のスクリーニングを大々的に進める予定であったが、昨年度と同様にトランスポゾンの転移頻度を増加させることができず、スクリーニングに供した変異体数が十分ではなかった。その結果、当初の計画から進展が遅れてしまったため、未使用額が生じることになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の研究費は、物品費を主として使用する予定である。本研究を推進する上で新たな購入が必要とされる高額機器はないので、研究費は分子生物学実験等に使用する消耗品や研究成果を発表するための旅費などに充てる予定である。
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