2016 Fiscal Year Research-status Report
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26440141
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
土屋 徹 京都大学, 地球環境学堂, 准教授 (20362569)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | シアノバクテリア / クロロフィルd / 光合成 / 遠赤色光 |
Outline of Annual Research Achievements |
一昨年度に確立したAcaryochloris marinaでのトランスポゾンタギング系を利用して、突然変異体の作出とスクリーニングを行ったが、変異体を作出する効率が著しく低かったため十分な変異体数を作出できず、目的とする変異体は得られなかった。使用するベクターの改変や形質転換における諸条件を検討したが、変異体の作出効率をあげることはできなかった。一方、もう一つの目的である、逆遺伝学的解析に利用する技術の開発には進展が見られた。近年、ゲノム編集において多くの生物でCas9タンパク質の有効性が報告されている。その変異体であるdCas9を利用した遺伝子発現抑制系であるCRISPR干渉(CRISPRi)のシアノバクテリアへの適用を検討した。CRISPRiで必要となるdCas9とsingle guide RNA(sgRNA)を発現させるためのCRISPRiベクターを作製し、モデルシアノバクテリアであるSynechocystis sp. PCC 6803に導入した。発現抑制の標的遺伝子としては、クロロフィル生合成経路の酵素であるDVR遺伝子を選択した。その結果、形質転換体ではDVR遺伝子の破壊時に蓄積される8-ビニルクロロフィルaが蓄積していた。本研究で作製したCRISPRiベクターは、広宿主域プラスミドRSF1010由来であるため、Synechocystisに限らず他のシアノバクテリアにおいても保持されることが予想される。RSF1010由来ベクタ-のA. marinaへの導入にはすでに成功しているため、本ベクターを利用してA. marinaでもCRISPRiを行うことが可能であろうと推測される。これは、A. marinaで標的遺伝子の機能を遺伝子発現抑制により調べる逆遺伝学的解析が可能となることを意味する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、トランスポゾンタギングにより作出したA. marinaの変異体のスクリーニング、すなわち順遺伝学的解析では進展が見られなかったが、逆遺伝学的解析手法の開発では大きな進展が見られた。遺伝子発現抑制系である、CRISPRiを行うためのベクターを開発し、モデルシアノバクテリアであるSynechocystis sp. PCC 6803で有効に機能することを実証した。本ベクターは広宿主域プラスミドをもとに作製したため、A. marinaでも保持され機能することが予想される。今後、クロロフィルd生合成に関与する可能性が高いオキシゲナーゼ等の候補遺伝子の発現抑制により、それら遺伝子の機能解析が可能となることが期待される。また、実際にA. marinaでCRISPRiが可能であれば、同様の遺伝子導入が必要とされるCRISPR/Casシステムでのゲノム編集技術を適用した遺伝子ターゲッティング系の開発も実現可能であると考えられる。 以上を鑑みて、現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に大きな進展のあった逆遺伝学的解析手法の開発とその利用に注力する。開発したCRISPRiベクターをA. marinaへ導入し、CRISPRiが可能かどうかを検証する。CRISPRiが可能になれば、オキシゲナーゼ等のクロロフィルd合成酵素の候補遺伝子を標的として発現を抑制する形質転換体を作出し、それらの色素組成を解析することで、クロロフィルd生合成に関わる遺伝子を同定する。 また、A. marinaでの遺伝子ターゲッティング系の確立については、CRISPRiでdCas9とsgRNAを発現するためのDNAを導入したように、Cas9とsgRNAを発現するためのDNAをプラスミドベクターを利用してA. marinaへ導入する。この時、あわせて標的遺伝子の相同領域と抗生物質耐性遺伝子カセットを含むDNA断片を導入することにより、遺伝子ターゲッティングが可能であるかを検証する。 接合法によるA. marinaへのプラスミドベクターの導入については、これまでに実験系が確立しているので、技術的に大きな問題はない。
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Causes of Carryover |
本年度も、トランスポゾンタギングで作出したA. marinaの変異体のスクリーニングを大々的に進める予定であったが、昨年度までと同様にトランスポゾンの転移頻度を増加させることができず、スクリーニングに供した変異体数が十分ではなかった。その結果、当初の計画から進展が遅れてしまったため、未使用額が生じることになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の研究費は、物品費を主として使用する予定である。本研究を推進する上で新たな購入が必要とされる高額機器はないので、研究費は分子生物学実験等に使用する消耗品や研究成果を発表するための旅費などに充てる予定である。
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