2016 Fiscal Year Research-status Report
植物界で初めて発見された水溶性アスタキサンチン結合蛋白質による強光防御機構の解明
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26440155
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
川崎 信治 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (50339090)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 微細藻類 / 極限環境 / カロテノイド / アスタキサンチン / 強光ストレス / 光酸化ストレス / 活性酸素 / 有用物質生産 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物は自身の光利用能力を上回る強光下では、脂溶性のカロテノイドを利用して強光障害を回避する機構(キサントフィルサイクルなど)をチラコイド膜上に発達させている。原核生物のラン藻は強光下で水溶性のカロテノイド結合タンパク質Orange carotenoid protein (OCP)を発現し強光防御を行うが、類似の水溶性タンパク質は真核の植物界には分布しないと考えられていた。申請者らは真夏のアスファルトから単離した真核の微細藻類(Ki-4株)が、強光が付随する環境ストレス下でアスタキサンチンを結合するオレンジ色の水溶性タンパク質(AstaPと命名)を高濃度に発現することを報告した。本研究ではAstaPによる強光防御機構の全容と生物分布を解析し、水溶性のカロテノイド結合タンパク質が関与する新奇な強光ストレス防御機構の解明を目指している。 H28年度は1)本微細藻類が光酸化ストレス下でAstaPタンパク質を大量に発現する発現誘導メカニズムについて、2)AstaPタンパク質を生産する代謝系の他微細藻類における分布と発現性の有無について、以上を主な目標として研究を行った。1)に関しては、環境ストレスの種類の差による光合成解析を重点的に行い、細胞の生理挙動とAstaPの発現誘導との相関性、ならびにストレス経時的な細胞のサンプリングに基づく遺伝子発現プログラムの解析を次世代シーケンサを用いたRNAseq解析を中心に研究を行った。2)に関しては、系統解析の結果に基づく類縁種の選定、海外の分譲機関からの分譲株の培養とストレス付与条件の選定、ならびに様々な光酸化ストレス条件下でのAstaP類似タンパク質の検出に関して解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究概要欄に述べた研究目的の解析は、おおむね順調に進展している。プロテオーム解析の結果から、AstaPは光酸化ストレス付与後の細胞内タンパク質の中で最も多量に発現するタンパク質であることが判明したため、本微細藻類のストレス防御能の中枢で機能することが強く示唆される。AstaPおよびastaP遺伝子は、強光のみでは発現しないが、強光が付随する乾燥や塩ストレス下(水分ストレス)で大量に発現した。また他のストレスの種類に関して検討を行った結果、光合成阻害剤の添加によっても発現上昇が観察されたことから、塩や乾燥などの水分ストレスが直接的な原因ではなく、光合成反応速度の低下に伴う光酸化ストレスが遺伝子とタンパク質の発現を誘導する直接的な因子であることが強く示唆された。本結果は、1重項酸素消去活性が高いアスタキサンチンを結合し水溶化する本タンパク質の機能特性も合わせて総合的に考察すると、AstaPの機能が光酸化ストレスの防御に関与することを示すものである。またAstaPタンパク質は類縁種にも広く分布することが観察された。未だ論文では未発表のため詳細は記載しないが、AstaPをコードする遺伝子は海外の温和な環境から採取された類縁微細藻類にも分布が確認された一方、それらは光酸化ストレスに顕著に弱く、AstaPタンパク質の発現は検出されたものの、その発現量は1/10以下と見積もられた。今後はさらなる微細藻類における分布を調査し、AstaPの発現量とストレス耐性の程度との相関性について知見を得る方針である。RNAseq解析の結果、astaP遺伝子以外にも複数のストレス誘導遺伝子が検出された。機能が未知な遺伝子も多く、今後は誘導率の高いものから順次その機能性の解明に着手する方針である。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度は最終年度であることから、上記概要欄で述べた研究目標を達成するために引き続き研究を進める方針である。現時点では、AstaPに類似する水溶性タンパク質は他生物では発見例が報告されておらず、光酸化ストレス防御タンパク質としての生物分布と機能性は依然として不明な点が多く残されている。本年度は最終年度として、植物界で新奇な強光防御機構の全容を把握するために、発現性、機能性、生物分布について信頼性の高い再現データを得ること、そして本研究期間内に得られた多数の実験結果の再現性を取得し、論文化を進める方針である。
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Causes of Carryover |
研究の計画はおおむね順調であるが、これまでに得られたデータに関して複数回の再現性の取得を実施中であり、より信頼性の高い結果の蓄積をめざしている。最終的な結果が得られ次第、遅れている論文化を進める方針である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H29年度の経費使用予定は、1:タンパク質の精製と遺伝子の解析に関する消耗品、2:論文執筆のための校閲費や論文投稿費、3学会参加費、を主に予定している。
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Research Products
(1 results)