2014 Fiscal Year Research-status Report
異感覚種における刺激方向情報を搬送する細胞集団のコーディング精度による予測
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26440176
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小川 宏人 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70301463)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 昆虫 / 神経回路 / コーディング / 方向選択性 / ニューロン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,コオロギ気流感覚系において,気流刺激の方向情報をPopulation codingする上行性投射ニューロン群を推定し,その情報表現の基盤となるニューロンの応答特性を明らかにするため, 8方向からの気流刺激に対する上行性投射ニューロン群の応答を細胞外記録し,分離したスパイクユニット活動から刺激方向をデコードして、最終的に十分な判別精度を示す最少のニューロン集団を推定した。 その結果,気流の方向情報は特定の4つのニューロンによって上位の神経系へと伝送されることが示唆された。これらのニューロンの平均発火頻度とデコードされた情報精度は,ともに一過的な時間変化を示したが、情報精度は平均発火数に対して約40msの時間遅れを示し,発火頻度の最大時刻ではなく、それに続く発火減衰期に最大となった。すなわち,情報精度の時間変化は発火頻度の変化に由来するものではなかった。そこで,情報精度に影響を及ぼす要因として,方向選択性を示すチューニングカーブと同一方向に対する応答のばらつき度を検証した。その結果,発火頻度の増大期では、選好性を示す刺激方向に対する応答が他の方向に対する応答よりもより増大していき、方向毎の応答差が発火頻度の上昇とともに拡大した。その後の発火減衰期では、方向感受性カーブの形状が維持されたまま、カーブ全体が下降していった。さらに減衰期では、発火頻度の減少に伴って,同一方向からの刺激に対する応答のばらつきが減少していた。発火頻度の増大期では選好性をもつ刺激方向に対する応答が選択的に増加することによって角度毎の応答の差が拡大し、刺激方向の判別精度が向上する。さらに、減衰期でチューニングカーブが形状を保ったまま下降することで,上昇期に増大した応答差が維持されたまま発火頻度そのものを下げる事ができるため、応答のばらつきが減少して判別精度が最大値をとると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
気流感覚系では研究計画通り,方向情報を搬送する上行性ニューロン群が4個の細胞から構成されており,さらにその反応特性が情報精度に与える影響についても明らかにすることができた。聴覚系でも同様の解析を試みたが,音刺激にのみ応答するユニットがほとんど存在せず,一部の気流応答ユニットを除けば,大半が音刺激・気流刺激双方に応答するmultimodal unitであった。しかし,聴覚系では頸部の腹側縦連合から記録した上行性神経活動に含まれるユニットが,気流感覚系で用いた腹部での記録に比べて非常に多く,ユニット分離の信頼性が低い。したがって,現時点では,細胞外記録によって音刺激の方向情報コーディングに関与するニューロン集団を推定するのは困難であると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は,上行性介在ニューロン群のin vivo 大規模カルシウムイメージングを行い,刺激に対するカルシウム応答の方向選択性データを初年度と同様の手法で解析することによって,方向情報をコーディングしている細胞集団を構成する個々のニューロンを同定する。上行性介在ニューロンの軸索が走行する腹側縦連合にカルシウム感受性蛍光色素(Oregon Green BAPTA-1, dextran-conjugated)を注入後,エレクトロポレーションによって軸索内にカルシウムプローブを取り込ませる。前胸神経節または最終腹部神経節を露出し,蛍光顕微鏡上で逆行性に染色された上行性介在ニューロン群を観察する。顕微鏡上に設置した刺激装置によって8方向からエアパフまたはトーン音を与えた時のカルシウム応答を,蛍光強度変化としてデジタルCCDカメラで計測する。それぞれのカルシウム応答の大きさを最大応答方向で規格化し,得られた全トライアルのカルシウム応答データから刺激方向がどの程度予測できるかを,デコーディングを用いて検証する。コーディング精度は,交差検定法で算出する方向判別精度のほか,気流感覚系の先行研究で用いられている情報理論による精度も用いる。細胞集団の最大コーディング精度を細胞数に対してプロットし,精度が飽和する最小集団を構成するニューロンを同定する。
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Causes of Carryover |
試薬等の消耗品費が予定より少額で済み,また国際会議での発表のための旅費のうち学生分が大学からの渡航費補助でまかなわれたため,差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越し分を合わせて,イメージング実験のためのソフトウェア更新,光学機器の整備に使用する予定である。
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Research Products
(14 results)