2015 Fiscal Year Research-status Report
ナメクジ嗅覚中枢の振動ネットワークの再編成能力を用いて脳波の仕組みを解明する
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26440183
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Research Institution | Tokushima Bunri University |
Principal Investigator |
小林 卓 徳島文理大学, 薬学部, 助教 (50325867)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | oscillatory network / synchronous oscillation / olfactory center / slug / cultured neuron / Ca2+ transinents / electrophysiology |
Outline of Annual Research Achievements |
ナメクジの脳にある嗅覚中枢「前脳葉」では、ヒトと同じように、ニューロンが規則正しく整列して層構造を形成している。ニューロンたちは満遍なく手を繋ぎ、電気シグナルを同期させながら振動活動(すなわち脳波)を発生させることにより「においの嗅ぎ分け」や「記憶」を行うと考えられている。さらに、ヒトを上回る再生能力をもち、切除された触角や破壊された前脳葉を数週間ののちに回復させ再び機能させることができる。研究代表者らは、一度バラバラにした前脳葉ニューロンたちが培養皿の上で再び同期的な振動ネットワークを形成することを見つけた。脳における振動活動「脳波」のしくみと役割を調べる目的で、神経振動ネットワークが出来上がってゆく様子を調べている。
目下のところ、ナメクジの神経振動ネットワークの再形成がニューロンの凝集を伴うこと、その凝集には前脳葉内における領域差(均一だと考えられていた前脳葉ニューロンの性質に領域依存的な差異)があること、そして同期的振動活動の駆動には神経伝達物質であるアセチルコリンの放出が重要な役割を果たしていることを見出してJ Comp Neurol誌等に発表した。さらに、ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン等のカテコールアミンや、セロトニン、ヒスタミン、オクトパミンを含む生体アミンらにも注目している。In vivoではこれら生体アミンによる前脳葉の振動活動の変調が観察されるが、in vitroの培養ニューロン・ネットワークでは見られない。前脳葉内には上記のアミン作動性ニューロンが見つからないという組織学的根拠から、前脳葉外からのアミン作動性入力が重要であることを改めて示そうとしている。そして、振動ネットワークがつくられる様子を順次観察しながらブラックボックスであった前脳葉ネットワークを明らかにしてゆく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者らは、分散培養によって一度バラバラにした前脳葉ニューロンが再び同期性を持ち振動活動を発生するまでの様子を調べてきた。特に、このin vitro振動ネットワークにおける様々な神経伝達物質および調節因子の作用と役割について注目している。近年、アセチルコリンの合成酵素およびニコチン性受容体がクローニングされたことで、前脳葉におけるコリナージックシステムの分布と役割が分かってきた。同様に、さまざまな生体アミンの合成酵素についてもクローニングが進み、それぞれの分布と役割が明らかになりつつある。前脳葉ニューロンのin vitro振動ネットワークにおける生体アミンたち、具体的にはヒスタミン、セロトニン、ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン、オクトパミン等の作用について調べた結果、各アミン作動性ニューロンの分布と役割について次第に考察できるようになってきている。これらの結果については動物学、生理学、神経科学等のさまざまな分野の学会で報告し、議論を重ねた上で論文として発表している。また、前脳葉内の領域差についても注目しており、前脳葉ニューロンのin vitro振動ネットワークが出来上がって行く様子を丹念に調べながら明らかにして行きたい。
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Strategy for Future Research Activity |
前脳葉ニューロンの興奮性を変化させ得る候補者はアセチルコリンや生体アミン以外にも幾つかあるのでひきつづき分散培養下の振動ネットワークを用いて網羅的に調べて行く。特に、振動ネットワークが出来上がって行く過程の時間解像度をより精密により詳しく調べることで、さらに新しい知見が得られると考えている。また、このin vitro振動ネットワークにおける可塑性にも注目して行きたい。元来、前脳葉は嗅覚に関する記憶の生成・維持に必要な領域として注目されていたが、記憶の実体について何ら具体的なことは明らかにされていない。ナメクジが自分にとって有利なにおい、または危険なにおいを覚えたときに脳の中では何らかの変化が長期的に起こっているはずであり、それは脳の最小単位であるニューロン内で生じる可塑的変化であると考えらえる。今までブラックボックスであった前脳葉の中をのぞくのにin vitro振動ネットワークの再形成過程はとても有用であるように思える。ニューロンレベルからネットワークレベルへ、すなわち最小単位からボトムアップ的に調べることで記憶の素過程および同期的振動活動の役割と意義について明らかにして行く。
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Causes of Carryover |
研究は順調に進行中である。一方で生理実験におけるデータの解析に用いるソフトウェアの更新を行わなかったため次年度使用額(B-A)が発生した。本ソフトウェアは目下のところ更新無しで問題なく使用続行可能である。もうひとつの理由として、物品費および旅費についても出来得る限り費用を抑えるよう様々な努力した結果である。翌年度中には、有効に使用したいと思います。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度も主な用途はこれまで通りである。分散培養および電気生理用の消耗品を購入するための物品費、研究発表のための旅費および論文投稿費に使用予定である。加えて、さらに効率良く分散培養標本を作製するために、これに関する実験機器を新たに追加購入する予定である。また、動物飼育のための道具も消耗が激しいのでこちらも更新して置きたい。生理実験データの記録解析用ソフトウェアの大きな更新があった場合には、使用計画を少し変更して、その更新費および動作可能なコンピュータを購入することを検討中です。
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