2016 Fiscal Year Research-status Report
ナメクジ嗅覚中枢の振動ネットワークの再編成能力を用いて脳波の仕組みを解明する
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26440183
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Research Institution | Tokushima Bunri University |
Principal Investigator |
小林 卓 徳島文理大学, 薬学部, 助教 (50325867)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | synchronous oscillation / neuron network / olfactory center / slug / cultured neuron / cholinergic system |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者らは、同期的振動ネットワークの仕組みと意義について調べている。ナメクジの脳は哺乳類に比べて少数のニューロンで構成される比較的シンプルなシステムだが、嗅覚中枢である前脳葉はおよそ10万個のニューロンが規則正しく整列して層構造を形成し、同期的振動活動(いわゆる脳波)を発 生している。ナメクジはこの同期的振動ネットワークを利用してにおいを嗅ぎ分けたり記憶したりする。さらに、ナメクジは素晴らしい再生能力をもっている。例えば、物理的に破壊した嗅覚中枢は数週間すれば層構造を回復させて同期的振動を発生するし、再びにおいの嗅ぎ分けや記憶をすることができるようになる。また、切除した触角は数週間すれば回復し、その先端部には元通りに眼と嗅上皮が形成されて、再び視覚および嗅覚情報を感受することができるようになる。研究代表者らは、一度バラバラにした嗅覚中枢のニューロンたちを生理食塩水中に静置するだけで、同期的振動ネットワークを再形成することを見出した。このin vitro同期的振動ネットワークにおける前脳葉ニューロンの自発的活動に影響を与えるさまざまな因子について調べた結果、特にコリナージックシステムが同期的振動の駆動に重要な働きをしていることが分かってきた。一方で多くの生体アミンは同期的振動に必須ではなく、ネットワークの外から影響を与える調節因子であることが分かってきた。これらの結果の一部は原著論文として(J Comp Neurol誌2014, 2016a, b)、または国内外の学会にてすでに発表済みである。目下のところ、同期的振動ネットワークが一からつくられる様子を調べながら、脳波の仕組みと意義について考察している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者らは、分散培養した前脳葉ニューロンたちがin vitro同期的振動ネットワークを形成して行く様子を調べた。その結果、グルタミン酸およびアセチルコリンを神経伝達物質とするシステム(glutamatergic systemおよびcholinergic system)がin vitroネットワークにおける前脳葉ニューロンの自発的活動を調節し得ることが示された。一方で、ドーパミン、セロトニン、アドレナリン、ノルアドレナリン、オクトパミンなど多くの生体アミンはin vitroネットワークにおける前脳葉ニューロンの自発的活動に影響を及ぼさなかった。すなわち、in vivoの前脳葉ネットワーク内に含まれる(内在性の)グルタミン酸とアセチルコリンは同期的振動活動の発生に重要であるが、in vivoの前脳葉ネットワークの外に存在する生体アミンたちは同期的振動活動の発生には必須ではなく、外からの調節因子として働くことが分かってきた。以上の中でも特にコリナージックシステムは重要である。十分に成熟したin vitro培養ネットワークでは、コリンエステラーゼ(アセチルコリン分解酵素)の抑制薬であるフィゾスチグミンまたはニコチンの投与により同期的振動活動が発生することが確認されているからである。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、in vitro前脳葉ニューロン・ネットワークの同期的振動活動の発生においてコリナージックシステムが重要な役割を果たしていることが分かってきた。今後はこのin vitro同期的振動ネットワークが成熟して行く過程で、コリナージックシステムがいつどのタイミングで決定的な役割を果たすのか、そして、どの様な機序で同期的振動に寄与するのか調べる。特に、ニコチン性アセチルコリン受容体については既に3つのサブタイプがクローニングされ、in vivoの前脳葉ネットワーク内の分布も確認されている。アンタゴニストを用いた薬理学的な解析を検討中である。また、同期的振動におけるニューロン間のシグナル伝達において、化学シナプス以外にも重要な因子は存在するかもしれない。いずれにしても前脳葉ニューロンの培養法を改良してin vitroネットワークの質を向上させることで劇的に研究が前進する可能性があるので精進したい。
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Causes of Carryover |
研究代表者らの成果より、前脳葉から再編成されたin vitro同期的振動ネットワークは、電気シグナルと少数の化学シグナルのみで成り立つことが分かってきた。多数の化学シグナルの候補についての網羅的な薬理学的解析を行う必要が無くなったため未使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前脳葉から再編成されるin vitro同期的振動ネットワークがつくられて行く過程をさらに精密にボトムアップ的に調べるために、そしてその結果を報告するために使用する。具体的には、同期的振動活動の発生に重要と考えられるコリナージックシステムに関する薬理学的実験、化学シナプス以外の因子についての解析、前脳葉ニューロンの培養法の改良のために使用する。また、これらの結果を国際学会および国際誌に報告するために使用する。
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