2014 Fiscal Year Research-status Report
H. pyloriによる人類移動の推定と病原因子の進化解析
Project/Area Number |
26440198
|
Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
鈴木 留美子 大分大学, 医学部, 助教 (70599092)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山岡 吉生 大分大学, 医学部, 教授 (00544248)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | ピロリ菌 / ゲノム / 系統解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は国内・海外各地のHelicobacyrt pylori(H. pylori)の系統解析を行い、これまでhpAmerindグループとしてひとまとめにされていた新大陸モンゴロイドの菌が、詳細な系統樹では北米系と南米系に分岐し、北海道にも北米系の菌が見られること、北米系の菌の中には他のH. pyloriと全く異なるゲノム構造を持つものがあること、沖縄に日本の他の地域では見られない菌が2系統存在することを明らかにしてきた。平成25年度以降、PacBioシーケンサーによって沖縄株を含む20株以上の完全ゲノムを得て、ゲノム全域を対象とした集団系統解析を行っている。さらに、豊富な菌のコレクションから、ネパール、タイ、インドネシア、ブータン、モンゴルなどアジア各地の菌のゲノムDNAをイルミナ社HiSeq200で読み取り、完全ゲノムのデータと合わせて解析を行った。その結果、これまで近縁株がみられなかった沖縄の菌集団に対して、ネパール株の一部が近縁であることを発見した。また、モンゴルの株が新大陸のhpAmerind系統の基部で分岐し、異なる病原性を持つ2つのグループに別れること、インドネシア株の中に4万年以上前にオーストラリア・ニューギニアに渡ったとされるhpSahulグループに属する菌があることも明らかにした。 本研究のもう一つのテーマはピロリ菌の祖先種の推定であるが、まず我々は北米系統のhpAmerind株の中に存在する特異なゲノム構造の菌が、トナカイから宿主転換したという仮説を立てた。PacBioシーケンサーによってこのような特異なゲノム構造を持つアラスカ株の完全ゲノムを得て、大型のネコ科動物に感染するH. acinonychisや、カマイルカとシロイルカから分離されたH. cetorumなどの近縁種とのゲノム比較を継続中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
沖縄では、本州と同じタイプの東アジアグループ(hspEAsia)に属する菌の他、台湾からニュージーランドにかけて分布するhspMaoriグループに近い菌と、インドなどに見られるhspAsia2グループに近い菌が確認されていた。hspMaoriは分布地域が琉球列島と地理的に近いことから、直接的な人口流入または歴史的・文化的交流による菌の水平伝播であろうと推測されたが、hspAsia2の分布域はインド半島を中心とする遠方の地域であり、その中でも沖縄の菌はインドやタイの菌とは異なるサブブランチを形成し、近縁株が不明であった。平成25年度以降の解析により、沖縄株とネパール株の一部との近縁性が確認され、沖縄株はインド南方系の菌より北方系の菌に近いことが判明した。ネパールと沖縄をつなぐ線はまだ不明だが、アジアの中で近縁株が見つかったことで、沖縄特異的な菌集団の由来を解明するという目標に一歩近づいた。 H. pyloriの起源について、以前はライオンやトラといった大型のネコ科動物に感染するH. acinonychisが最も近縁であるとされていた。H. acinonychisと通常のH. pyloriのゲノム構造は大きく異なっているが、北米系の菌の中にゲノム構造がH. acinonychisに近いものが見つかった。2012年にカマイルカとシロイルカから分離されたH. cetorumが、16s rRNAの解析に基づいてH. pyloriと最も近縁であると報告されたが、H. cetorumとH. pyloriおよびH. cetorumと北米特異菌の間にゲノム構造の共通性は見られず、ゲノム全体を比較すると依然としてH. acinonychisの方がH. pyloriや北米特異菌との相同性が高い。このことから、H. cetorumがH. pyloriの祖先種である可能性は低いと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
沖縄特異的H. pylori菌集団とネパールの菌の間の近縁性が判明したが、地理的に遠いこの2点をつなぐ菌はまだみつかっていない。5~10万年前にアフリカから世界各地に放散した現生人類の足跡に関しては、4万年以上前にオーストラリアアボリジニの祖先が、現代アジア人の祖先より先にオセアニアに到達していたことがわかっており、現代のオーストラリアとパプアニューギニアの原住民からはH. pyloriのhpSahulグループの菌が検出される。オセアニアへの移動経路はインドネシア経由であろうと推測されるが、現在までのところhpSahul系の菌はオーストラリアとニューギニアにしか見られない。これは、大陸側では後続の人口流入によって古い年代の移住者との交雑が起きたか、集団が置き換わるかしたためと考えられる。hpSahulと同様、ネパールと沖縄をつなぐ点が見られないのも、他の地域では初期移動の痕跡が失われ、島嶼や山岳地帯のような隔離的環境のみに残っているためかもしれない。本研究の母体である研究室は、今後もアジア各地でのフィールド調査を計画しており、さらに探索を進める予定である。 次世代シーケンサーによるゲノムDNAの読み取りは、これまで共同研究先に全面的に委託していたが、平成26年度に大学共通機器としてMiSeqが導入され、実験担当者のトレーニングを経て稼働している。委託シーケンスの場合、大量で高品質なデータを得るため、培養菌体から高濃度のDNAを抽出して渡す必要があるが、MiSeqでは微量DNA用のキットを利用することで、既に菌体が失われて抽出DNAのみが残っているサンプルについてもシーケンスが可能である。今後は、各地のH. pyloriゲノムDNAシーケンシングだけでなく、祖先種探索のための動物検体にも次世代シーケンス技術を用いて研究を進める。
|
Causes of Carryover |
大学内共通機器として設置された次世代シーケンサー(MiSeq)用の試薬を購入予定であったが、実験担当者が次世代シーケンシング未経験であったため、実験手技向上のためのトレーニング期間をとった。トレーニング用試薬は別予算で提供されており、当研究費を利用する必要はなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次世代シーケンサーが本格稼働する今年度は、試薬キットの購入を行う。また、シーケンス結果のデータアウトプット増加に合わせて解析用コンピュータの購入を計画している。
|