2015 Fiscal Year Research-status Report
外来タンポポによる在来種駆逐を引き起こす、繁殖干渉メカニズムの解明
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26440211
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
西田 佐知子 名古屋大学, 博物館, 准教授 (10311490)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 繁殖干渉 / タンポポ / 外来種問題 / 種間相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物の分布を決める要因解明は分類地理学の重要なテーマの一つである。今まで生物の分布を決める要因としては、気温や地質条件、一過的な歴史的事情などの解明が中心に進められてきた。しかし最近は生物学的要因として、繁殖干渉という種間相互作用に注目が集まっている。申請者は、繁殖干渉が近縁な植物種間の分布にどのように影響を与えるのか解明するため、外来タンポポによる在来タンポポの分布変更に注目した。 繁殖干渉とは、他種(とくに生殖機構が似た近縁種)から繁殖過程で受ける悪影響を指す。植物における繁殖干渉は、近縁種の花粉を受けることで種子数が減ったり、雑種を作ることで健全な子孫が減る形などで起こる。申請者は日本各地の在来タンポポについて、その分布や生態、遺伝的構造、外来種からの繁殖干渉の受け方などを調べ、個体群間の違いを比較することで繁殖干渉が起こるメカニズムの解明を試みる。 2015年度は主に徳島や北海道のタンポポについて、在来と外来種の分布状況、繁殖干渉の強度、めしべ内における在来および外来種の花粉管行動などを調査した。その結果、徳島の在来個体群は外来種から繁殖干渉を受けにくいこと、また、徳島の在来個体群のめしべ内での花粉管行動は、以前東海地方の在来タンポポで調べた結果とは異なる可能性があることを突き止めた。 一方、北海道の在来個体群は、一見外来種からの繁殖干渉を受けていないような結果を得られたが、分布調査からは外来種による駆逐があるように見られ、そのメカニズムについては不明な点が残った。また、各地のタンポポの遺伝的差異についても調査を行い、一部の地域個体群に差があることを確認した。 このようにタンポポを対象とした研究のほか、2015年度は研究対象を広げ、タンポポ以外の植物においてもタンポポにおける繁殖干渉と同じメカニズムが働いているのか、そのメカニズムの普遍性について予備調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
タンポポは春先に一斉に咲くため、多数の地域の個体群を同年度に調査することは難しい。そこでカンサイタンポポ個体群の調査は、調査地を前年度の岡山から徳島に移して花粉管行動の観察を行った。一方、花期のずれる北海道の調査については、前年度より広い地域での分布調査のほか、人工授粉実験を行った。また、タンポポの調査時期以外の季節を利用してタンポポ以外の調査を行い、タンポポにおける繁殖干渉メカニズムが他の植物でも普遍的にみられるのかどうかについて予備研究を行った。 徳島のカンサイタンポポでは、在来個体の花序に同種他個体、外来個体、および同種と外来個体混合の花粉を人工授粉し、回収できた約250の花の花粉管行動を連携研究者に観察してもらった。 北海道のタンポポについては、在来タンポポ約40個体を使い、雌しべに同種他個体の花粉を授粉、同種と外来個体の花粉の混合を授粉、もしくは無授粉という処理をし、それぞれの処理をした花に種子ができるかどうかを調査した。その結果、いずれの処理においても高い割合で種子ができた。したがって北海道の個体群では、外来の花粉によって実付きが悪くなるという、他のタンポポでみられる繁殖干渉は生じていないと考えられる。しかし分布調査の結果をみると、在来種は外来種に駆逐されているように見受けられる。このように、北海道のタンポポについては不明な点が多い結果になった。 このほか、遺伝子解析については核および葉緑体DNAについて遺伝子領域の増幅・シーケンスを試みた結果、一部の個体群に変異が見られた。また、タンポポ以外の植物で繁殖干渉がないかどうかについて調査を行い、シソ科やキツネノマゴ科植物でタンポポと比較しうる調査対象を見つけた。 このような点を総合すると、おおむね予定どおりに研究が進んでいるといえるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
カンサイタンポポの個体群についてはさらに対象地域を増やして調査を行うほか、2014-5年度に岡山および徳島で行った調査結果と今まで研究が行われた近畿の個体群のデータをまとめて、シミュレーションモデルの作成を始めたい。花粉管行動というミクロレベルでの繁殖干渉メカニズムが、個体レベル、個体群レベル、地域レベルにおける外来種による分布変更にどう影響を与えるのかを検証するため、どのようなシミュレーションモデルが適当かの試行錯誤を始める。 また他種のタンポポにおいては、今までの繁殖干渉研究の中でもっとも謎の残る北海道のタンポポに焦点を当て、雑種形成など、今までとは違った視点を加えて研究を進めたい。そのためには、従来の観察および実験のほか、DNAシーケンスなど遺伝子解析にも重点を移していく予定である。 一方、前年度にタンポポの繁殖干渉との比較対象として、シソ科アキギリ属とキツネノマゴ科イセハナビ属に興味深い種間相互作用を見つけた。そこで、タンポポの調査と並行して、主に西日本に分布するアキギリ属と沖縄から台湾に分布するイセハナビ属の調査を行いたい。具体的には、種間の相対的な出現頻度の調査と結実の計測、他種間の人工授粉実験による繁殖干渉の検証を行う予定である。ただし、本研究の主眼はタンポポなので、これ以上調査対象の植物を増やすことはできるだけ避け、この2属における種間相互作用とタンポポの繁殖干渉との間の相違点、そこから見えてくる植物に普遍的な繁殖干渉メカニズムの把握を目的の中心に据える。
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Research Products
(6 results)