2015 Fiscal Year Research-status Report
ミドリイシ属サンゴの雑種種分化-雑種体の妊性と多種同調産卵からの解明-
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26440225
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Research Institution | Okinawa National College of Technology |
Principal Investigator |
磯村 尚子 沖縄工業高等専門学校, 生物資源工学科, 准教授 (90376989)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
深見 裕伸 宮崎大学, 農学部, 准教授 (50402756)
守田 昌哉 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 准教授 (80535302)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 雑種体の産卵 / 自家受精 / 精子選択 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、以下の3項目について研究を行うことでミドリイシ属サンゴの雑種種分化の機構を明らかにする。対象は、群体形態の極めて異なるトゲスギミドリイシとサボテンミドリイシの2種に加え、これまで継続してきた研究成果の中で得られた2種の中間形態を持つ推定雑種および確定雑種である。1)分子系統学的アプローチ:十分なレベルでの遺伝的な系統推定による雑種性の検討。2)生態学的アプローチ:多種同調産卵する場所(阿嘉島)としない場所(瀬底島)における雑種形成の違いについての調査。①推定雑種の分布調査 ②同調産卵状況の調査 ③交配実験。3)確定雑種を用いた解析:確定雑種の繁殖能力について、①生殖細胞の形成 ②産卵 ③親種との交雑能 の各点に着目した形態学的観察および交配実験。 平成27年度は、1)分子系統学的アプローチ、2)生態学的アプローチおよび3)確定雑種を用いた解析について結果が得られた。1)では、既存の遺伝子マーカーを用いた系統解析により、確定雑種は親種2種由来のアリルが存在することが示された。 2)では、瀬底島における分布調査において、昨年までは確認できなかった阿嘉島でみられた対象2種の推定雑種が確認できた。瀬底島では、数年ぶりにミドリイシ類の多種同調産卵がみられたが、水槽内において対象2種はそれぞれ別の日に産卵した。これらの結果から、稀に同調産卵をおこなう地域でも雑種体が形成される可能性があり、野外における産卵調査がますます必要である。 3)では、昨年度に引き続き確定雑種の配偶子形成と産卵が確認された。さらに、確定雑種は、ミドリイシ類ではみられない自家受精を行うことがわかった。さらに、自家受精由来の胚はプラヌラ幼生まで正常に発生し、その後定着した。このことから、親種がいない場所に雑種が加入した際、自家受精により集団を形成・維持していくことができると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ミドリイシ属サンゴの雑種種分化の鍵となる「雑種体の繁殖能力」について、設定していた検討項目(配偶子形成と産卵および雑種体同士・親種との受精能の確認)に加え、ミドリイシ類では通常見られない自家受精が確認された。これらの結果は、”Isomura N, Iwao K, Morita M, Fukami H (2016) Spawning and fertility of F1 hybrids of the coral genus Acropora in the Indo-Pacific. Coral Reefs (in press)”として発表済である。また、同種・異種精子が存在する時に、同種・異種交配がどのような頻度で生じるのかを調査した精子選択実験、同種交配と異種交配由来の受精卵についての胚発生の比較、および確定雑種の形態解析の結果について、投稿準備がほぼ完了している。さらに、雑種体の繁殖能力については、6月にハワイで開催される国際サンゴ礁学会で発表予定である。以上の経過から、現在までの進捗状況を判断した。 一方で、1)分子系統学的アプローチ:十分なレベルでの遺伝的な系統推定による雑種性の検討は、未完了である。阿嘉島および瀬底島の両調査地において対象群体すべてついてDNA抽出はすでに終了しているため、今年度はマイクロサテライトマーカーとRad-Seqを用いた集団解析・系統解析を行ない、遺伝学的な見地から雑種の存在を明らかにしていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はまず、1)分子系統学的アプローチ:十分なレベルでの遺伝的な系統推定による雑種性の検討、を完了させる。「現在までの進捗状況」に方法は記載したが、多数の遺伝子座を用いて集団・系統解析を行なうことで、本研究で目的としていた「多種同調産卵と雑種体形成の関連」が明らかになると考えられる。 2)生態学的アプローチ:多種同調産卵する場所(阿嘉島)としない場所(瀬底島)における雑種形成の違いについての調査、については、瀬底島で推定雑種が見つかったことから、野外での分布・産卵状況を調査する必要がある。現在、両調査地において、対象種群体についての詳細なマッピングを作製し、それぞれの群体の産卵日時を記録している。 3)確定雑種を用いた解析:確定雑種の繁殖能力、については、前々年・前年に引き続き、今夏も確定雑種体が産卵するかを確認する予定である。また、自家受精は、雑種体が複数プラヌラの融合により生成された「キメラ」であるために生じている可能性がある。確定雑種の複数部位について遺伝的解析を行い、雑種体がキメラであるのかを確かめる必要がある。 さらに、当初予定していた3項目に加え、確定雑種およびF2の作出と育成に注力する予定である。本研究で行った調査項目を複数の雑種体で試行することで、さらに雑種体の性質を明らかにすることができる。
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Causes of Carryover |
研究代表者である磯村尚子が該当年度当初に体調を崩し、予定していた遺伝子解析が行えなかった。その分の金額が次年度使用額として生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度は、遺伝子解析に注力する予定である。当初より予定していた解析に加え、前年度行えなかった解析についても予算を計画通りに執行していく。
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