2015 Fiscal Year Research-status Report
近接する海底火山の熱水噴出域間には共通の小型底生生物相が存在するか?
Project/Area Number |
26440246
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
嶋永 元裕 熊本大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (70345057)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡部 裕美 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生物多様性研究分野, 技術主任 (50447380)
野牧 秀隆 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 生物地球化学研究分野, 主任研究員 (90435834)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 熱水噴出域 / メイオベントス / 伊豆海域 / 海底火山 / 生物相 / 深海 |
Outline of Annual Research Achievements |
伊豆海域の三つの隣接する海底火山(明神海丘・明神礁カルデラ・ベヨネース海丘)カルデラ内の熱水噴出孔(チムニー)の密集地域である熱水域と,その周辺の熱水噴出の影響のない地域(非熱水域)の海底堆積物中と複数のチムニー壁面上に生息するメイオベントス相を比較した.海底堆積物中では,熱水域・非水域を問わず,線虫類と底生カイアシ類(ソコミジンコ目)がそれぞれ第一,第二優占分類群であったが,チムニー壁面では底生カイアシ類が優占した.チムニー壁面でも,相対的に水温の低い環境下ではソコミジンコ類が優占するが,本調査海域の熱水域大型付着動物の中では最も高温下に生息するイトエラゴカイの棲管が密集する場所(イトエラゴカイマット)では,熱水域固有のカイアシ類Dirivultidae(ウオジラミ目)が優占した.安定同位体比分析の結果,海底に生息するメイオベントスは海洋表層から沈降してきた光合成由来有機物に依存するのに対して,イトエラゴカイマットに生息するDirivultidaeは化学合成由来有機物に強く依存することが示された.興味深いことに,イトエラゴカイマットに生息する線虫類は,同所的に存在するDirivultidaeと異なり,海底の同類と同じく光合成由来有機物にほぼ依存し,ソコミジンコ類は中程度の依存性をもつことが示めされた.三海底火山の熱水域のDirivultidaeは,ほぼStygiopontius属の個体で構成されていたが,同属既存種との形態と塩基配列双方からの比較検討の結果,これらは未記載の同一種であり (以下Stygiopontius sp.と呼称),明神礁カルデラとベオネース海丘間の遺伝的多様性と各海底火山カルデラ内多様性が同程度であることから,海底火山間での遺伝的交流の存在が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
伊豆海域の三つの隣接する海底火山(明神海丘・明神礁カルデラ・ベヨネース海丘)カルデラ内外のメイオベントスの高次分類群レベルの組成をすべて完了した.各ハビタット(カルデラ外非熱水域,カルデラ内非熱水域-熱水域の海底堆積物,およびチムニー壁面)の堆積物中有機物とメイオベントス体組織の炭素窒素安定同位体比分析や主要分類群の体組織の炭素窒素安定同位体比分析は,前年度の予備的な分析を踏まえ本年度から本格的に行った.その結果,興味深いことに,チムニー直近部では,化学合成由来物質に対する依存性が分類群によって異なることが示された.メイオベントスの塩基配列抽出においては,外部形態を残したまま(すなわち分類や雌雄,成長段階などの重要な形態情報を保存したまま)体内の遺伝情報を抽出する方法を確立した(現在投稿中).この方法を用いて,Dirivultidaeカイアシ類の優占種であったStygiopontius sp.に関しては、明神礁カルデラとベオネース海丘の雌雄個体が同種レベルの遺伝的距離に収まること,すでに登録されている同属別種のクレイドとは明らかに異なることなどを確かめた.これら期待以上の成果を含め,研究はおおむね順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
究データがほぼ整った熱水域メイオベントス高次分類群レベルの群集組成の空間変異,およびメイオベントスの安定同位体比分析に関しては,最終年度である次年度前半に論文にして投稿する.熱水域カイアシ類Stygiopontiusに関しては,明神海丘カルデラ内の熱水域など,さらに塩基配列情報を集積し,次年度後半に論文としてまとめる.
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