2015 Fiscal Year Research-status Report
円網性クモにおける色彩変異の進化をもたらす生態的要因の解明
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26440251
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
中田 兼介 京都女子大学, 現代社会学部, 教授 (80331031)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
繁宮 悠介 長崎総合科学大学, 総合情報学部, 講師 (00399213)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 体色 / 種内変異 / 光環境 / 造網 / 進化 / 種間比較 / 円網 / クモ |
Outline of Annual Research Achievements |
26年度から持ち越したギンメッキゴミグモの体色の表現型可塑性について、春に孵化し夏に成熟する個体を重点的に飼育した。その結果、親子の相関は弱いことがわかった。このことから、夏世代の体色決定における表現型可塑性の関与と、関与の度合いが世代によって異なる可能性、が示唆された。 ギンナガゴミグモのサンプリング調査を26年に引き続き行ったところ、26年のデータとは異なり、4月の初め頃にも成体を多数発見した。このことから、26年報告した本種の年1化性が誤りであり、実際は年2化性であると考えられた。 27年度以降に実施する予定だった、ミナミノシマゴミグモにおける餌昆虫の行動調査と生態調査を行った。餌昆虫の行動調査では、9月に野外でビデオ撮影を実施し、10月に室内におけるショウジョウバエの飛行経路推定の予備実験を行った。ビデオから0.03秒ごとの餌昆虫の画面上での飛行経路が推定されたが、ほぼ直線か緩やかな弧を描いて網に衝突しており、現段階では体色に誘引されるような行動とは言えない結果である。室内実験では、三次元的に経路を推定するための装置を完成させ、数例の飛翔映像を得た結果から装置の改良を行い、28年度に本格的な実験を行う。生態調査では、全天写真の撮影と写真を使った網形態の測定、体色とゴミリボン色の比較のためのサンプリングを行った。同じく予定していたミナミノシマゴミグモの飼育は、4個体の親から27個体の子を得たが、体色のばらつきは大きく、サンプル数を増やす必要がある。ミナミノシマゴミグモの造網場所の光環境についても調査を行い、データ解析を進めている。 ギンメッキゴミグモで見られたメスの一回交尾について、ミナミノシマゴミグモでも同様の現象が起こっているが、ゴミグモでは起こっていないことを示唆する観察を行った。これらの情報は各種の体色の遺伝性を野外採集した個体を用いて推定する際に重要な情報である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の研究計画では、1)ギンメッキゴミグモとギンナガゴミグモの餌誘引能力の実験的検証、2)餌昆虫の飛行経路解析、3)ミナミノシマゴミグモ、ギンナガゴミグモの飼育技術の開発と体色の遺伝性の検討、4)ギンメッキゴミグモの体色決定への表現型可塑性の影響、5)ミナミノシマゴミグモの採餌生態調査、を予定していた。さらに26年度の研究結果を受けて6)各種のメスがの一回交尾の可能性の検討を追加研究課題とした。 このうち4)、5)については一定の成果を得た。特に5)については昨年から前倒しで調査を進めており、観察データの蓄積が予定より速く進んでいる。4)については、当初想定していたよりも、本種の体色決定が複雑である可能性が示唆される結果となっている。また、3)についてはミナミノシマゴミグモでは結果が出ているが、ギンナガではまだである。しかしこの件は28年度も引き続き研究を行う予定であり、遅れているというほどではない。2)は観察系の構築に手間取ったため、一定の成果を得ている一方で、計画より若干遅れている面も見られる。1)については、追加課題である6)の遂行に時間を圧迫されたため、本年度はほとんど成果を得ることができなかった。しかしながら、こちらは実験系はすでに構築が済んでいるため、28年度に遂行できるものと考えている。6)については、本研究の対象の4種中3種で情報を得ることができた。これは当初の計画にはなかった進捗であると言える。 これらの点をまとめると、27年度の研究達成度について、一部の遅れは見られるものの、予定より進展した部分もあることから、全体としてはおおむね順調であると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年の研究成果から、ギンメッキゴミグモの体色に表現型可塑性が関与する大きさは世代によって異なっている可能性が示唆された。このことはギンメッキゴミグモの集団内に、体色に関する可塑性の大きな個体と可塑性をあまり持たない個体が混在している可能性を示唆している。本年は、この点について、より確実な結論を得られるよう、さらにデータを蓄積することを予定している。
また、27年度の予定が未達成である餌昆虫の飛行経路解析とギンメッキゴミグモとギンナガゴミグモの餌誘引能力の実験的検証、ギンナガゴミグモの飼育と一回交尾の可能性の調査については、28年度に引き続き行う予定である。特に、餌昆虫の飛行経路解析は、観察系の構築はほぼ終わっているため、重点的に研究を行う。また、ミナミノシマゴミグモの採餌生態の調査とギンナガゴミグモのサンプリング調査も継続して行う。可能であれば、ギンナガゴミグモの採餌生態の調査も行うことを計画している。
これまでの成果によって得られたギンメッキゴミグモの生態情報と28年度の成果も加えた表現型可塑性調査の結果を組み込み、体色変異を持った個体群で各体色タイプの頻度がどのように変化するかを予測する理論モデルを作り、観察データと比較する。これをもとに、シミュレーションも用いながら、ギンメッキゴミグモの採餌生態の各特徴が、種内における色彩変異の進化と維持にどのように影響しているかについて明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
予定していたギンメッキゴミグモとギンナガゴミグモの餌誘引能力の実験的検証が、未達成であり、そこで使用する予定の消耗品代が使用されずに剰余として残った。また、国内学会の参加旅費を、予定していた学会の一つが研究代表者の所属校で開催されたこともあり、予定より少ない額しか使用しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ギンメッキゴミグモとギンナガゴミグモの餌誘引能力の実験的検証における消耗品として使用することを計画している。
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