2015 Fiscal Year Research-status Report
サツマイモ野生2倍体種の自家不和合性における自他認識因子の決定
Project/Area Number |
26450002
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
土屋 亨 三重大学, 生命科学研究支援センター, 准教授 (30293806)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 高等植物 / 自家不和合性 / 生殖生理 / 自他認識 / サツマイモ野生種 |
Outline of Annual Research Achievements |
自家不和合性は、雌雄の生殖器官が正常に発達するにも関わらず、自殖および同一の自家不和合性表現型(S表現型)を示す植物間の交配では種子が得られない他殖促進の機構である。サツマイモ野生2倍体種を含むヒルガオ科植物は胞子体型自家不和合性を示すが、同型のアブラナ科植物の自家不和合性とは異なる遺伝子が機能している。本研究ではサツマイモ野生2倍体種のS遺伝子を決定すべく、既知のS候補遺伝子からS遺伝子の絞り込みを行う。 雄側S候補遺伝子産物であるAB2タンパク質の部分ペプチドを合成して受粉時に供するバイオアッセイの実験により、AB2が自己花粉の花粉管伸長を抑制する傾向が認められ、AB2が雄側のS候補遺伝子である可能性が示唆されたが、AB2が雄側のS遺伝子であることの直接的証明、ならびに雌側のS候補遺伝子の同定に至ることはできない。そこで、サツマイモ野生2倍体種のS候補遺伝子を導入した形質転換体の作出を試みた。 サツマイモ野生2倍体種への遺伝子導入実験に関する報告は僅かであり、しかも成長点由来カルスに対する導入実験のみが報告されている。そこで今回改めて、各器官に由来するカルスに対しての形質転換系の確立を試みた。 サツマイモ野生2倍体種の成長点、葉片、葉柄、根、茎からのカルス誘導を試みたところ、既報に記された成長点に由来するカルスのみならず、葉片、葉柄からの旺盛なカルス形成が認められた。 遺伝子導入カルスについては再分化に向けた培養を継続しているが、再分化効率が極めて低い状況にある。既報に基づくと、サツマイモ野生2倍体種及び栽培種の再分化においてはGA3及びABAの施用が効率的であるとされているが、他の植物の形質転換系ではサイトカイニン類の施用が常法であることから、現在検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定では、S候補遺伝子のcDNAをセンス方向に導入した形質転換体を作出し、自家不和合性の表現型の解析を進める予定であったが、各S候補遺伝子に関しては、複数の選択的スプライシング産物が確認されたことから、各S候補遺伝子に関してプロモーター領域からターミネーター領域までのゲノムクローンの単離を行うこととした。当初予定のまま進めていた場合には、真に機能する選択的スプライシング産物由来のcDNAを導入しなければ自家不和合性の表現型の変化を観察できなかった可能性が非常に高く、実験方法の変更により対処できるものと考えている。 S候補遺伝子を導入したサツマイモ野生2倍体種の作出のためには、成長点由来の胚性カルスを誘導しなければならないが、一部系統においては、比較的効率的に胚性カルスが誘導できることが、昨年度の実験から明らかになった。また、成長点以外の組織からも胚性カルスの誘導が確認され、遺伝子導入の対象が大幅に広がり、今後、効率的な形質転換系が確立できると考えている。 サツマイモ野生2倍体種の自家不和合性は直線的な優劣性関係を示しているため、S1-S候補遺伝子を導入する際には、より劣性側の系統を使用する必要がある。現有のSホモ型系統への遺伝子導入効率も検討したところ、激しい系統間格差が認められた。今後の形質転換体の作出においては、系統毎の遺伝子導入条件および培養条件の検討が必要であるが克服できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、サツマイモ野生2倍体種のS1-S候補遺伝子を導入した植物(カルス)は、サツマイモ野生2倍体種の各種系統(S1、S3、S10、Sc)、および、タバコ、シロイヌナズナである。 サツマイモ野生2倍体種の各種系統に関しては、カルスの形質転換は確認されているが、再分化には至っていない。再分化条件の検討を系統毎に行うと共に、再分化個体を獲得した後には、導入遺伝子による獲得形質を、交配実験により確認する予定である。 タバコおよびシロイヌナズナに関しては、遺伝子導入初代(T0世代)の獲得はできたが、昨年度内に後代(T1世代)の展開、および交配実験による獲得形質の確認は行えないでいる状況にあった。これら植物種において、導入したサツマイモ野生2倍体種のS候補遺伝子による自家不和合性の獲得が認められれば、植物種毎に異なる自家不和合性の自他認識機構は、植物種に関わらず共通のシグナル伝達機構を利用しており、しかし自他認識の因子のみが異なり、結果として異なった自家不和合性機構を獲得したことが証明される。 また、近年のゲノム解析の進歩に伴い、サツマイモ野生2倍体種の近縁植物のゲノムも解析されつつある。サツマイモ野生2倍体種の自家不和合性系統および自家和合性系統のゲノムが、かずさDNA研究所と農研機構の共同研究により解明された。また、サツマイモ野生2倍体種が属するヒルガオ科植物(アサガオなど)のゲノム解析も進展しているという情報がある。これらのゲノム配列と、我々が解析したサツマイモ野生2倍体種のS遺伝子座の配列を比較検討することにより、S遺伝子の同定が捗ることが予想される。現在、ヒルガオ科植物のゲノム解析データを蒐集中であり、これらとの比較ゲノム解析を行うことにより、ヒルガオ科植物の自家不和合性ならびに自家和合性の要因についても検討できると考えている。
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Causes of Carryover |
一昨年度は、我々が使用しているPCR装置が故障したため、研究開始当初予定していたリアルタイムPCR装置の購入を断念し、新たにPCR装置を購入した。 昨年度においては、故障したPCR装置の修理を予定していたが、サツマイモ野生2倍体種のカルス誘導条件の検討および再分化条件の検討に要した培養資材(特に植物ホルモン、抗生物質類)の購入額が予想以上に計上され、PCR装置の修理を断念した。この関係で次年度使用額が生じたが、今後、サツマイモ野生2倍体種の再分化条件の検討に関わる試薬等の購入に要するため、当初の研究計画を遂行できると考えている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額が発生したが本差額分を含めて、今後遂行する「形質転換植物を利用したサツマイモ野生2倍体種における自他認識因子の決定」での各種試薬の購入、ならびに「サツマイモ野生2倍体種における自家不和合性遺伝子座の解析」における塩基配列等に資する。なお、研究開始当初の研究計画に変更はないが、研究開始当初予定していた高額機器(リアルタイムPCR)を利用する実験に関しては、学内共同利用の機器を利用すると共に、学内の他研究室が保有する機器を使用させて頂くことにより、研究は遅滞なく進めることができると考えている。
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