2014 Fiscal Year Research-status Report
ラズベリー黄化ウイルスの花粉による水平伝染のメカニズム解明
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26450051
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
磯貝 雅道 岩手大学, 農学部, 准教授 (30312515)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ラズベリー黄化ウイルス / 植物ウイルス / 花粉伝染 / 花粉による水平伝染 / 花粉管 / 柱頭 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、わが国のラズベリー需要が急増し、栽培適地である東北地方で産地化が進んでいる。一方で、ラズベリー黄化ウイルス(RBDV)の発生が世界的に問題となっている。RBDV は、感染樹からの花粉が受粉することで健全樹に伝染する(花粉による水平伝染)。これまで植物ウイルスの中で、花粉による水平伝染のメカニズムを解明した例はない。申請者は、RBDVの花粉による水平伝染が草本植物のトレニアで再現できることを見出し、トレニアを用いてRBDVの花粉による水平伝染のメカニズムの解析を行っている。トレニア柱頭に感染ラズベリー花粉を人工授粉すると、RBDVがトレニアに水平伝染することを見出している。そこで、アニリンブルー染色によりトレニア柱頭上での感染ラズベリー花粉の動態を解析した。その結果、感染ラズベリー花粉がトレニア柱頭上で発芽し、その花粉管が柱頭内へ侵入している様子が観察された。さらに、感染ラズベリー花粉の花粉管は、トレニア花柱1㎝未満で伸長を停止してしまうことが分かった。一方、発芽能を喪失させた感染ラズベリー花粉を健全トレニアに人工授粉した場合、母体への水平伝染は確認できなかった。これらのことから、感染ラズベリーの花粉管により、トレニア柱頭から花柱1 cm未満の間でRBDVが感染し、母体へと感染が拡大すると考えられた。そこで、Tissue blot hybridization解析すると、柱頭でRBDVが感染し、花柱へウイルス感染を拡大している様子が確認できた。さらに、感染ラズベリーの花粉管先端にウイルスが蓄積していることが分かった。これらの結果から、感染ラズベリー花粉は、トレニア柱頭上で発芽してウイルスの蓄積した花粉管をトレニア柱頭へ侵入させることで、その柱頭にウイルスが感染し、花柱を経て母体へ全身感染することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、解析1: RBDV感染花粉および花粉管でのウイルス局在・増殖の解析、解析2: RBDV感染ラズベリー花粉を人工授粉した健全トレニア雌ずいでの最初にRBDV感染が成立する部位の解析およびラズベリー花粉のトレニア柱頭および花柱での花粉管伸長の解析、解析3: GFPを発現する組換えRBDVの作出の3つの解析からなる研究実施計画を立て、計画通りに実施した。解析1については、花粉の発芽孔および花粉管先端にRBDVが蓄積していることを明らかにした。さらに、RBDV感染ラズベリー樹から採集した花粉を発芽培地に入れ、経時的に採取した花粉中のウイルスゲノムのコピー数を定量PCRにより解析した。その結果、花粉内での経時的なウイルスゲノムのコピー数増加は検出されなかった。解析2については、柱頭が最初の感染部位となること、ラズベリー花粉はトレニア柱頭で花粉管を発芽しその柱頭に侵入するが、花粉管伸長をトレニア花柱の途中で停止してしまうことを明らかにした。解析3については、RBDVの感染性cDNAクローンのベクター化に成功した。しかし、GFP遺伝子を挿入すると感染性を喪失してしまうことが分かった。このことから、RBDVの感染経路をGFP蛍光により可視化することは難しいと判断した。今後、RBDVの感染経路の解析を、tissue blot hybridizationおよびin situ hybridizationにより行うこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は以下の2つである。 1.花粉管は、細胞膜そして細胞壁のもとになる小胞がエキソサイトーシスにより先端部に取り込まれて伸長する。仮に、この小胞にウイルスが含まれていると、花粉管からウイルスが排出されると予想される。通常、花粉が柱頭に授粉されると、花粉管が発芽して柱頭の乳頭細胞に侵入し、乳頭細胞の細胞壁中または細胞壁と細胞膜の間を通って、花柱内にある分泌細胞の細胞外マトリックスに侵入する。昨年度の研究から、花粉による水平伝染の初期感染部位が柱頭であることを明らかにした。このことから、柱頭の乳頭細胞と花粉管のインターラクションにより、ウイルス感染が柱頭で生じると考えられる。そこで、乳頭細胞と感染花粉の花粉管とのインターラクションとウイルス感染について解析する。 2.感染花粉を起点とする花粉による水平伝染と垂直伝染のメカニズムを理解し、花粉伝染における植物ウイルスの感染戦略を明らかにする。胚はカロース層で囲まれているため、柱頭あるいは花柱で出現した最初の感染成立部位から胚へウイルス感染が効率的に進行することは難しい。このことから、RBDVの花粉による水平伝染を導く柱頭からのウイルス感染により、種子にウイルスが感染するとは考えにくい。そのため、花粉による垂直伝染のメカニズムは、花粉管が受精のために胚のうに侵入する際、花粉管に蓄積しているウイルスが同時に胚のうに導入され、種子中の胚にウイルスが感染すると考えている。これを証明するためには、花粉による水平伝染を生じない条件下で、RBDVに感染した花粉管を胚のうに導入し、種子中のウイルスの存在を証明する必要がある。そこで、花粉による水平伝染を阻害し、花粉管を胚のうに侵入させて授精させる方法および形成された種子中のウイルスを検出する方法を確立し研究を推進する。
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