2014 Fiscal Year Research-status Report
Development of disease resistant plants by artificial orientation of epigenetic mutation.
Project/Area Number |
26450054
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
小林 一成 三重大学, 生命科学研究支援センター, 教授 (90205451)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イネ / いもち病 / 防御応答 / DNAメチル化 / 耐病性育種 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、DNAの塩基配列変化を伴わず、DNAやクロマチンの化学修飾を通した遺伝形質制御の実態が次第に明らかになりつつあり、このような研究領域は「エピジェネティクス」として急速に発展しつつある。植物が病原菌や害虫からの攻撃にさらされると、獲得された抵抗性が後代の植物に伝達される現象が、最近の研究から明らかになってきた。本研究は、植物ゲノムDNAのメチル化状態を人為的に方向づけることによる実用的な耐病性植物作出の可能性を探ることを目的としている。今年度は、研究計画に基づき、以下のような成果を得た。 (1)イネの杯盤上皮細胞から誘導したカルスに防御関連遺伝子の発現を誘導するため、カルス誘導培地またはカルス再生培地あるいはその両方にプロベナゾール(50~150μM)を7日間処理し、カルスから再生イネ個体が得られる条件を検討した。この結果、いずれの処理によっても再生個体は得られるが、再生培地に高濃度のプロベナゾールを添加した場合には再生率が著しく低下することが明らかになった。 (2)発根後2~3週間の再生植物体のいもち病抵抗性を検討した結果、カルス誘導培地にプロベナゾールを高濃度で添加することにより、耐病化した再生個体を効率的に得られることが確認された。後代植物のいもち病抵抗性を確認したところ、いずれの個体においてもいもち病抵抗性が維持され、この表現型が遺伝することが明らかになった。 (3)再分化イネ個体においてメチル化状態が変化する機構を明らかにするため、カルスにおける遺伝子発現とDNAメチル化状態の関係を調べた結果、プロモーター領域の脱メチル化とカルスにおける高発現が高い相関にあることが明らかになった。この結果は、カルスから植物体への再生過程において特定の遺伝子セットを高発現させることにより、エピジェネティックな状態を人為的に制御できる可能性を強く示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、DNAメチル化などのエピジェネティックな状態を人為的に方向づけ、耐病性育種に利用できる可能性を探ることにある。この目的を達成するため、今年度は耐病性再生植物を効率的に作出する条件を検討した。この検討結果から確立された条件により作出された再生個体は、少なくとも次代までは耐病性の表現型を持続しており、この方法によって獲得された耐病性が遺伝することが明らかになった。この結果は、本研究の根幹をなす「エピジェネティック変異の人為的方向づけ」が可能であることが強く示唆しており、今年度中に達成すべき最も重要な成果が得られたと言える。 さらに、今年度の研究から、カルスにおける遺伝子の発現状態と再分化植物における遺伝子プロモーター領域の脱メチル化変化との間に強い相関があることが明らかになった。この結果は、「エピジェネティック変異の人為的方向づけ」のメカニズムを説明する上で極めて有力な手掛かりであり、重要な発見であると言える。 以上の通り、本年度に実施した研究は概ね計画通りに進行しており、得られた研究成果は本研究の最終的な目標に向けて順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、今年度に圃場栽培した3代目イネの種子を用い、今年度と同様の方法により再生イネ個体のいもち病抵抗性を調査する。さらにその後も調査を継続するために、圃場において再生個体後代の栽培を続行し、獲得されたいもち病抵抗性が遺伝的に安定であるか否かを検討する予定である。さらに、今年度実施できなかった、いもち病菌を接種した再分化イネ個体における遺伝子発現を次年度に実施する予定である。マイクロアレイまたは次世代シーケンサーによって遺伝子発現を網羅的に解析し、耐病化した再生イネ個体の遺伝子発現プロファイルが野生型植物とどのように異なるかを明らかにする。 また、今年度の研究成果より、カルス誘導培地における培養期間が長いほど、再生個体における遺伝子プロモーター領域のDNAメチル化状態変化が著しいことが明らかになった。このような傾向は、「エピジェネティック変異の人為的方向づけ」のメカニズム解明と耐病性植物の作出技術確立にとって極めて重要であると考えられる。そこで次年度は、培養期間の異なるカルスにおいて、DNAメチル化維持機構に関わる酵素の活性や酵素をコードする遺伝子の発現を解析することとする。
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Causes of Carryover |
今年度は、再生個体に生じたメチル化状態変化が遺伝子発現に及ぼす影響を網羅的に解析するマイクロアレイあるいは次世代シーケンサーによるRNA-seq解析を実施する予定であったが、メチル化変化のメカニズムの解析を先に進めたことから、これらは次年度に実施することとした。遺伝子発現の網羅的解析には費用を要するため、次年度の使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度実施できなかった、いもち病菌を接種した再分化イネ個体における網羅的な遺伝子発現解析は平成27年度に実施する予定であり、繰り越された費用はこのために使用する。
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