2015 Fiscal Year Research-status Report
窒素固定細菌共生系における菌叢ダイナミクスモデルの構築と大気中窒素の転換
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26450085
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
前田 勇 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (10252701)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 枯草菌―紅色非硫黄細菌共生系 / 枯草菌―光合成細菌共生系 / 窒素固定 |
Outline of Annual Research Achievements |
農業生産においてエネルギー消費と環境への負荷が少ない窒素肥料の生産手法の開発が求められている。生物学的窒素固定は大気中の窒素ガスをアンモニアに変換する過程であり、窒素固定反応を利用することで省エネルギー型の窒素肥料の生産が実現する可能性を秘めている。そこで、酸素非発生型の光合成に伴い窒素固定を行うことができる紅色非硫黄細菌生細胞を触媒とした、光駆動性の窒素固定ならびに増殖を持続させる研究を行った。窒素固定を触媒するニトロゲナーゼは、酸素ガスあるいはアンモニアによって阻害される。このため、大気中の窒素ガスを基質とした無機態窒素への変換を持続させることを目的として、酸素ガスを選択的に取り除き窒素ガスを供給することとした。 実験には、3種の紅色非硫黄細菌を用いた。平成26年度の研究成果から酸素ガスの除去が紅色非硫黄細菌の窒素固定において有効に機能すると考えられた。そこで紅色非硫黄細菌3種と、化学合成細菌である枯草菌の2株との共培養を試みた。空気封入下、無機態および有機態窒素を含まない培地での共生系の増殖能の有無を各細菌のDNA定量により調べた。その結果、Rhodopseudomonas palustrisあるいはRhodobacter sphaeroidesと、2株のBacillus subtilisとの組み合わせにおいて2継代後も共生系の持続的な増殖が確認された。顕微鏡観察の結果、共培養により形成されたバイオフィルム中に紅色非硫黄細菌と枯草菌が互いに近接して増殖する様子が観察された。また、気液比が共生系の窒素固定依存の増殖に影響すること、共培養液中にアンモニアは検出されないこと、共生系の培養液においてのみ無機態・有機態窒素含量が増加することを確認した。 このことから、枯草菌との共培養が紅色非硫黄細菌の大気中窒素ガスを基質した窒素固定の持続において有効に機能していることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度には、大気存在下における共培養液の窒素固定に依存した増殖能の持続という観点から紅色非硫黄細菌と枯草菌の組み合わせの中から最適なものを選び出した。培養液の濁度や培養液中の紅色非硫黄細菌と枯草菌各DNA量の変化から、共培養液において窒素固定に依存した増殖が持続することが示唆された。これらの結果に加えて平成27年度には、共培養液において形成されたバイオフィルム中の紅色非硫黄細菌と枯草菌の細胞を染色により区別し顕微鏡下において観察することができ、その結果両菌株はバイオフィルム内にて共生系を維持しつつ経日的に増殖することが明らかになった。更には、共培養において培養容器に封入する気相(空気)と液相(培地)の比率の最適化を行い、気相と液相の比率が1:6か3:4の場合は窒素固定に依存した紅色非硫黄細菌の増殖が認められるが、5:2の場合は増殖が認められないことを明らかにした。本結果から、培養液量に対しての封入空気量が持続的な窒素固定共生系の構築において重要であることが示唆された。 最終的には最適化条件にて共培養を行い、培養液中の無機態及び有機態窒素の含量が増加することをケルダール法による定量実験で明らかにした。紅色非硫黄細菌の純粋培養では同一条件にて培養後にも培養液中の無機態及び有機態窒素は検出されなかったため、紅色非硫黄細菌においては枯草菌との共培養により大気中窒素ガスからの窒素固定が行われることを初めて示すことができた。 現在、本研究成果を国際学術誌に投稿すべく取りまとめ中である。これらの状況から、研究は計画通りにおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
最適化によって得られた条件で窒素固定細菌共生系の構築を再現することで、培養経過に伴う諸々の変化に関して、以下の項目を実施する。 ・共生系のニトロゲナーゼ活性とニトロゲナーゼの遺伝子の定量的解析 窒素固定に依存した培養液中の無機態・有機態窒素含量の増加が、ニトロゲナーゼの触媒作用によるものであることを明らかにする。系全体の窒素固定反応速度の経時的変化を調べるために、サンプリングされたバイオフィルムのニトロゲナーゼ活性をアセチレン還元法にて測定する。また、サンプリングされたバイオフィルムのメタゲノムにおいて、rRNA遺伝子に対するニトロゲナーゼの遺伝子(nifH)の量比を求めることにより、窒素固定反応を定量的に捕らえる。 ・菌叢ダイナミクスモデルの構築 窒素固定細菌共生系が構築されていく過程における菌数と菌叢の変化を、16S rRNAを指標とした定量PCRにより明らかにしていく。枯草菌と紅色非硫黄細菌の植菌量の比率を変化させることで菌叢がどのように変化を把握する。これらの手法を通じて、菌体増殖、多様性の増加、定常状態への移行、化学合成細菌と窒素固定細菌のバランス、属・種の置換等が生じているかどうかを解析する。さらに、窒素固定活性の変化と菌数・菌叢の変化とを関連づけすることで、環境因子によって変動するダイナミクスモデル構築に結びつける。
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Research Products
(2 results)