2016 Fiscal Year Research-status Report
窒素固定細菌共生系における菌叢ダイナミクスモデルの構築と大気中窒素の転換
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26450085
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
前田 勇 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (10252701)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 窒素固定 / 光合成細菌 / 枯草菌 / 共生系 / 共培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
非共生窒素固定細菌である光合成細菌の窒素固定を空気中の窒素を基質として持続的に行わせるために枯草菌との共培養を検討した。無機態・有機態窒素を含まない培地に枯草菌と光合成細菌を同時に移植することで細胞増殖を確認した。枯草菌は窒素固定能を有しておらず、かつ偏性好気性菌であることから、試験管内に封入された空気中の酸素が枯草菌によって消費された結果低酸素分圧となり、窒素固定を触媒する光合成細菌ニトロゲナーゼの酸素による活性阻害が回避されたことが推察された。 共培養では無機態・有機態窒素非存在下、枯草菌の増殖を支える窒素源は、光合成細菌が固定する窒素に依存すると考えられる。これを裏付けるためにニトロゲナーゼをコードするnif遺伝子の発現量を、抽出したRNAを鋳型とした逆転写反応の後にリアルタイムPCRにより測定した。その結果、無機態窒素を添加した光合成細菌純粋培養の場合と比較し、共培養時には発現量が大幅に増加することが明らかになった。さらにアセチレン還元法にて、無機態・有機態窒素を含まない培地にて培養した光合成細菌と枯草菌の純粋培養液、そしてそれら細菌の共培養液のニトロゲナーゼ活性を測定したところ、共培養液についてのみ活性が認められた。また、培地と菌体を含む培養液をそのまま凍結乾燥にかけ水分を除き、得られた乾燥物のC/Nを元素分析装置により求めた。その結果、共培養液乾燥物についてのみC/Nの有意な低下が認められた。培地に添加した有機酸が細菌の増殖により一部、二酸化炭素に変換され気相に移行したことと、封入した空気中の窒素が窒素化合物として菌体そして培地に移行したことが要因であると考えられる。共培養時においては空気存在下、ニトロゲナーゼの活性が持続し窒素固定が行われることが、これらの実験結果から明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
細胞染色後の顕微鏡観察で、共培養で形成されるバイオフィルム内において枯草菌の芽胞形成が少なからず認められた。芽胞は皮層の外部に芽胞殻蛋白、その内部に厚いペプチドグリカン層から成る芽胞殻を有するため、芽胞からのDNA抽出効率は栄養細胞と比較し大幅に低下すると考えられる。当初計画では芽胞形成による細菌DNAの抽出効率の低下は予期していなかった。しかしながら、リアルタイムPCRによる枯草菌DNAの定量解析の結果として、細胞増殖と共にDNA量の増加後の大幅な減少が認められ、さらにはDNA量の各測定値における大きな分散が生じたため、これらの傾向が枯草菌の芽胞形成に起因するものではないかと結論付けられた。共培養液の増殖過程において光合成細菌と枯草菌の菌数変動を正確に評価するためには、従来の消化酵素主体の溶菌過程に加えて、より細胞破壊力に優れたマイクロビーズによる破砕過程の導入が必要であると考えられる。このような当初計画では想定していなかった要因により信頼性の高い菌数変動のデータが得られておらず、論文投稿した際には根拠が低い点として指摘される恐れもある。このため、マイクロビーズによる破砕過程を取り入れたものに抽出方法を変更した上で追加的な実験をいくつか行いたいと考えており、平成29年度も本研究課題に継続的に取り組むため補助事業期間の延長申請を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
共培養液において形成されるバイオフィルムを新しい培地に植え継ぐことで継代し、光合成細菌と枯草菌の菌体量において定常的な状態が維持されるかどうかを検討する。継代培養によって定常的な状態が持続する場合、異なる比率で両細菌を同時移植し定常状態に移行した後に共培養液の菌体量比に変化が生じるのか、あるいは一定の菌体量比に収束するのかを明らかにする。継代培養によって共培養液の菌体量比が変動し続ける場合は、その変動に繰り返しのパターンがあるのかどうか、あるいは菌体量比が収束していく値があるのかどうか等について検証を行う。これらの試験を通じて、1種の細菌が有する窒素固定活性がその菌種ともう一方の菌種の間の菌数バランスを決定しうる要因になるのかどうか、その際に各菌株の増殖が互いにどのように影響し合うのかを明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
国際学術誌への論文投稿の準備の過程で実験データによる裏付けが低い箇所があることが判明し論文の主張をより確実に実験データにより示す必要性が考えられた。このため追加的な実験をいくつか行いたいと考えており平成29年度にかけて本研究課題に継続的に取り組むため補助事業期間を延長申請を行った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
共培養を継続的に行うために培養に必要な試薬と、培養液菌体から光合成細菌と枯草菌の各DNAを抽出するための試薬(キット)の購入を計画する。培養液中の菌体量を明らかにするためにリアルタイムPCRを行う予定であり、そのための試薬(キット)とオリゴヌクレオチドプライマーの購入を計画する。また、菌体のサンプリングやDNA抽出、リアルタイムPCRに必要な各種オートピペットチップや各種チューブを購入する予定である。
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Research Products
(3 results)