2015 Fiscal Year Research-status Report
新規ヒ酸還元細菌Geobacter OR-1のヒ素代謝遺伝子発現ダイナミクス
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26450086
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
天知 誠吾 千葉大学, 園芸学研究科, 教授 (80323393)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ヒ素 / Geobacter / ヒ酸還元 / 鉄還元 / 汚染 / シトクロム / 細胞外電子伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、OR-1株を酢酸を炭素源、ヒ酸またはフマル酸を最終電子受容体として嫌気的に生育させ、全タンパク質抽出を行った。タンパク質は1D SDS-PAGEとLC-MS/MSを用いて同定した。ゲノムワイドで定量的な解析法を行うため、emPAIに基づいたラベルフリーな半定量的なプロテオーム解析アプローチを用いた。その結果、ヒ酸とフマル酸生育条件下において、それぞれ985個と831個のタンパク質が同定された。ヒ酸生育条件下では、フマル酸生育時と比較して、異化的ヒ酸還元酵素ArrABが高い発現量を示し、Arrの活性中心molybdopterinの生合成系や亜ヒ酸排出に関わるArsAの発現上昇も見られた。また、抗酸化酵素(peroxiredoxin, rubrerythrin, rubredoxin)、ストレス応答(UspA, Hsp90) 、folding関連タンパク質(SurA)、分子シャペロン(ClpB, DnaJK, GrpE)、trigger factorなどの発現上昇が確認された。さらに、mismatch repair 関連酵素、mRNA・tRNA合成酵素、elongation factorの発現も上昇していた。ヒ酸生育時には、ヒ酸のアナログであるリン酸transporterの発現上昇が見られ、硫黄代謝経路の活性化、特にthiol基の再形成に関わる酵素が発現上昇していた。これは、亜ヒ酸とthiol基の親和性が高いことに関連すると考えられた。エネルギー代謝に関して、NADH dehydrogenase や、H+-ATPaseの発現は低下した一方、酢酸の活性化経路、および還元的アセチルCoA経路の活性化が見られた。以上の結果から、OR-1 株は高濃度のヒ素に曝露されることで、ヒ素代謝酵素群のみならず、抗酸化酵素、分子シャペロンなどを協調的に発現上昇させると共に、硫黄、エネルギー代謝系を活性化することで、ヒ素耐性を獲得することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
すでに、ヒ素代謝遺伝子群のオペロンマッピング、主要機能遺伝子(ArrA、ArsC)の発現量の定量(qRT-PCR)、ラベルフリーな半定量的なプロテオーム解析が終了した。従って、当初予定と比較しておおむね順調に進展していると言える。ただ、当初期待していた、ヒ酸の存在下で特異的に発現するシトクロムの同定には未だ至っていない。ヒ素代謝遺伝子の発現に及ぼす環境因子、特にヒ素(ヒ酸、亜ヒ酸)の影響については、最終年度の今年度に実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
arrAとarsCの発現に及ぼすヒ酸および亜ヒ酸濃度の検討を行う。フマル酸を電子受容体とした培養液に0.1 uM~1 mM程度のヒ酸または亜ヒ酸を添加し培養する。総RNAを抽出後、ランダムヘキサマー存在下でcDNAを合成し、あらかじめ設計したPCRプライマーを用いた定量PCR(qPCR)によりそれぞれのコピー数を算出する。遺伝子の発現は、同様のqRT-PCRで定量したハウスキーピング遺伝子(gyrB)のコピー数に対し標準化する。次に、ヒ酸およびそれ以外の電子受容体(フマル酸、硝酸、鉄など)で生育した際の発現量を定量的に比較する。最後に、arrAとarsCの発現に及ぼす酸素の影響を検討する。具体的には、ヒ酸存在下で嫌気培養した培養液を酸素に曝露後、適宜サンプリングを行いqRT-PCRにて発現量の変化をモニターする。
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Causes of Carryover |
年度末に少額の残額が発生したため、次年度へ持ち越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験で使用する試薬等物品費として使用予定である。
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