2014 Fiscal Year Research-status Report
線毛装置の分子基盤に関する研究:膜内で伸縮する機能性タンパク質繊維の創製に向けて
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26450102
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
玉腰 雅忠 東京薬科大学, 生命科学部, 准教授 (10277254)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 線毛 |
Outline of Annual Research Achievements |
緑膿菌、髄膜炎菌などの線毛膜装置においては、外膜チャネルと内膜複合体をつなぐリポタンパク質が知られている。高度好熱菌Thermus thermophilusではそれに対応するタンパク質が見つかっていないが、外膜チャネルタンパク質PilQと相互作用するタンパク質として新規のリポタンパク質(T. thermophilus HB8株ではTTHA0007、HB27株ではTTC1615)を見出した。そこで、このタンパク質遺伝子を破壊して、線毛に関連する機能解析を以下のように行った。 理研バイオリソースセンターから取り寄せた遺伝子破壊のためのベクターを用いてHB8およびHB27株由来のΔpyrE株をそれぞれ形質転換し、薬剤耐性株を得た。その変異株を寒天培地上で培養し、コロニーの周縁を顕微鏡観察したところ、野生株では波打つように細胞が散らばっているのに対し、変異株ではシャープな線状を示したことから、線毛の平面運動であるtwitching motilityを失うことがわかった。また、pyrE遺伝子を相補するインテグレーションベクターを用いて形質転換能を調べたところ、野生型と同程度の形質転換効率を示したことから、DNAの取り込み能を維持していることがわかった。さらに、線毛に依存して感染するファージを用いてプラーク形成実験を行ったところ、プラークが形成されなかったことから、ファージに対する感受性を失った。一方、電子顕微鏡を用いて細胞表層を観察したところ、予備的ではあるが線毛と思われる繊維が見られた。以上の表現型は、線毛が収縮Tする際に機能するATPase PilTの表現型と類似している。したがって、THA0007およびTTC1615によってコードされるタンパク質は線毛の収縮に必要なリポタンパク質と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究実施計画では、研究代表者が見出した新規のリポタンパク質遺伝子を破壊した好熱菌株を作製し、①電子顕微鏡による細胞表層の観察、②DNAの取り込み能の解析、③線毛依存ファージに対する感受性を調べる予定であった。これらのうち、②および③は実験が終了し、①に関しては予備的な結果を得ている。また、変性27年度に行う予定の実験、すなわち、リポタンパク質のC末端にタグを付加するためのベクターの構築を既に開始している。これらのことから、おおむね順調に進展しているといってよい。
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Strategy for Future Research Activity |
線毛繊維は太さ数ナノメートルと非常に細く、また一つの細胞から数本程度が分泌されるだけなので、電子顕微鏡による表層観察で線毛の有無を明確にすることは容易ではない。観察する細胞数を増やして、結論を出したい。 また、平成27年度は研究代表者が見出した線毛膜装置におけるリポタンパク質の役割を調べるため、以下のように研究を進める。 TTHA0007によってコードされるタンパク質のC末端にc-Mycタグを付加したタンパク質を野生型タンパク質の代わりに発現する好熱菌株を作製する。次に、タグを付加することによって線毛関連現象にどのような影響があるか、すなわち、線毛の有無とその量、twitching motility、DNAの取り込み、ファージ感受性などを調べる。これらの線毛現象に関して大きな影響がなければ、その好熱菌を培養して膜画分を調製し、c-Mycに対する抗体を用いてプルダウンアッセイを行う。溶出されるタンパク質を電気泳動し、タンパク質のバンドを切り出して、質量分析を行う。目的のリポタンパク質が得られるか、また同時に溶出されるタンパク質、すなわちリポタンパク質と相互作用するタンパク質を明らかにする。 大腸菌などの常温生物ではリポタンパク質の脂質部分に関する構造や生合成経路が詳細に調べられているが、好熱菌ではその報告がない。そこで、リポタンパク質を大量に調製し、特に脂質部分について質量分析やNMRによる構造解析を行う。好熱菌Thermus thermophilusの脂質は3種類の主要糖脂質が知られているが、それらのうちどのタイプなのか、または異なる脂質を持つのかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
2つの学会発表のうち、分子生物学会は横浜で開催されたため、旅費の支出を抑えることができた。また、好熱菌を大量培養するための50リットルジャーファーメンターが故障し、修理不能の状態になった。したがって、培養に必要な培地を購入しなかった。また、遺伝子破壊のためのベクターを構築せず、理研から安価に取り寄せたため、ベクター構築のためのDNA合成や遺伝子工学試薬を購入する必要がなくなった。これらのことから、消耗品費を抑えることができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は抗体などの高価な試薬を多く購入する予定なので、それらの消耗品費に当てる。平成26年度にジャーファーメンターが故障し、修理不能になったため、大量培養を外注する。さらに、リポタンパク質の脂質部分に関する構造解析として、質量分析およびNMR分析を行う予定である。それらに必要な試薬や外注費に充てる。
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