2014 Fiscal Year Research-status Report
成長期からの潜在的亜鉛欠乏が精神発達・気分障害に及ぼす影響
Project/Area Number |
26450149
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
後藤 知子 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (00342783)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 亜鉛欠乏 / 成長期 / ラット / 気分障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国では近年、食習慣の乱れや食生活の偏りなどにより潜在的な亜鉛欠乏が増えているといわれている。亜鉛は必須微量元素の1つであり、欠乏すると、食欲不振、成長遅延、味覚障害などを引き起こすことが知られている。また臨床的には、うつ病・自閉症患者で血清亜鉛濃度が低下しており、これら患者の症状が亜鉛欠乏で進展することも報告された。注意欠陥多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder: ADHD)の子どもで血清亜鉛濃度が低いこと、自閉症の症状を有する日本人の子ども(特に0~3歳)で毛髪中亜鉛・マグネシウム濃度が低いことも明らかにされた。しかし、成長期からの潜在的亜鉛欠乏が精神発達・気分障害に及ぼす影響の詳細は未だ明らかではない。そこで、成長期からの潜在的亜鉛欠乏が精神発達・気分障害に及ぼす影響を明らかにするため、以下について検討した。 (1)脳内セロトニン分泌に及ぼす影響:うつ病患者では脳内セロトニン分泌の低下が報告されている。そこで、実験食(亜鉛欠乏食、亜鉛添加食)飼育4日目の視床下部外側野(LH)におけるセロトニン分泌(高カリウム液刺激時)をマイクロダイアリシス法にて検討した。その結果、亜鉛欠乏食飼育4日目で、LHにおけるセロトニン分泌が低下傾向を示した。 (2)メラトニン分泌に及ぼす影響:セロトニン同様、トリプトファンから誘導されるメラトニン(睡眠促進作用)の血漿中濃度をELSIA法にて測定した結果、亜鉛欠乏食飼育32日目の血漿メラトニン濃度が有意に低下した。 (3)うつ様行動に及ぼす影響:睡眠時(明期)に対する活動時(暗期)自発行動量は、亜鉛欠乏食飼育12日目で有意に低下し、以降は低値を維持し、うつ様行動の可能性が考えられた。亜鉛欠乏食飼育4日目暗期のLH透析液中オレキシン濃度も有意な低値を示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
交付申請書に記載した研究実施計画(平成26年度)では、「脳内セロトニン分泌」「メラトニン分泌」の他に、「脳内BDNF分泌」や「脳内Zn2+濃度」も検討する予定であった。しかし、本研究課題「成長期からの潜在的亜鉛欠乏が精神発達・気分障害に及ぼす影響」の基盤となる現象(成長期からの潜在的亜鉛欠乏によるうつ様行動など)を本実験系では未確認であり、これらの現象を捉えることが先決であることを認識した。したがって、交付申請書では平成27年度の研究実施計画としていた「成長期からの潜在的亜鉛欠乏がうつ様行動に及ぼす影響」を平成26年度に検討した。以上の理由により、現在までの達成度は「やや遅れている」と自己評価している。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.うつ病患者では、血清亜鉛濃度が低下していることが報告されている。一方、うつ病患者で脳内セロトニン分泌低下、グルココルチコイド分泌増加、脳内BDNF (Brain derived neurotrophic factor: 脳由来神経栄養因子)分泌低下が認められることも報告されている。しかし、潜在的亜鉛欠乏がそれらに及ぼす影響は不明である。そこで、成長期からの潜在的亜鉛欠乏が、以下の項目に及ぼす影響について検討する予定である。 (1)脳内BDNF分泌:血清・脳脊髄液BDNF濃度をELISA法にて測定して追跡する。 (2)グルココルチコイド分泌:血清コルチコステロン(グルココルチコイド)濃度をELISA法にて測定して追跡する。 (3)脳内Zn2+濃度:脳脊髄液・脳内各部位透析液中Zn2+濃度を測定して追跡する。 2.注意欠陥多動性障害(ADHD)モデルラット(SHRSP)への亜鉛強化が症状の改善に及ぼす影響:ADHDモデルとしてSHRSP (Stroke-Prone Spontaneously Hypertensive Rat: 脳卒中易発性高血圧自然発症ラット)を用いることが知られてきた。そこでSHRSPに亜鉛欠乏食、亜鉛添加食を給餌し、自発行動量測定装置や暗視カメラを用いて多動性を観察する。また、SHRSPへの亜鉛強化による行動変化を追跡する。さらに、脳内セロトニン分泌、BDNF分泌、グルココルチコイド分泌、脳内Zn2+濃度に及ぼす影響を検討する。
|
Causes of Carryover |
交付申請書に記載した平成26年度の研究実施計画で遂行できなかった項目(脳内BDNF分泌、グルココルチコイド分泌、脳内Zn2+濃度)があったことから、次年度使用額が生じてしまった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
血漿・脳脊髄液中BDNF濃度をELISA法にて測定するため、ELISAキット(@100,000円×3=300,000円)を使用する予定である。その他の物品費、旅費、人件費・謝金、その他については、申請時の計画どおりと考えている。
|