2015 Fiscal Year Research-status Report
食品への圧力加工処理による成分富化とメカニズムの解明
Project/Area Number |
26450176
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
藤田 智之 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (10238579)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 高静水圧処理 / 穀類 / ポリフェノール成分 / 玄米 / 蕎麦 |
Outline of Annual Research Achievements |
中高圧(100MPa)条件下で、玄米(コシヒカリ)に加水・加温処理を行うと、常圧下での水浸漬処理に比べて水の浸透性が高まり、糠中の成分が胚乳部に浸透移行し、精白米中のポリフェノール成分や遊離アミノ酸量が顕著に増加することを見出してきた。そこで、本研究では中高圧下での加工条件と内層への機能性成分の移行性との相関を明らかにする目的で、玄米及び普通ソバ種子等を用いて加工処理を行い、成分量の変化を調査した。 既に、玄米にカルミン酸水溶液を添加して、常温(20℃)または加温(55℃)、常圧(0.1MPa)または加圧(100MPa)下で24時間加圧処理を施し、粒内への色素の浸透度の違いを成分量で評価した。また、中高圧下での加工条件(温度及び時間)と内層への機能性成分の移行性との相関性を明らかにしている。なお、玄米内部への色素の浸透度をデジタル顕微鏡で観察した結果、個体差が顕著であり、画像での定量が困難であった。 今年度、普通ソバ種子及び殻を除去した丸抜きソバを用いて、中高圧条件下での酵素活性への影響を検討した結果、中高圧処理後の種子中のβ-グルコシダーゼ活性は低下するものの処理前の酵素を加圧下で反応させたところ、活性が常圧での反応に比べて1.5倍に増加することを明らかにした。この結果から、中高圧処理中のβ-グルコシダーゼ活性が昂進し、種子中のルチンを加水分解してクエルセチンが増加するメカニズムを明らかにした。 以上の結果から、穀類に中高圧処理を施すと、胚芽中の酵素が活性され、酵素反応が進行して成分の加水分解等成分移行が進行することが示された。今後、処理時間と成分の移行についても詳細な検討が必要と考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、玄米で得られた知見をもとに、1.成分移行の可視化および各種色素成分の移行性の検討、2.中高圧処理条件と成分移行との相関および各種食品素材への応用、3.中高圧条件下での内生酵素活性への影響を調査、の3点を解明することを目標とした。 まず、玄米を用いた中高圧処理実験では、研究実績の概要に記載した成果を得ており、1の項目は達成できている 次に、普通ソバ種子等を用いて、中高圧条件下での酵素活性への影響を明らかにする実験では、玄米への処理条件と同様の加工処理をソバ種子に施すことにより、常圧下での処理に比べてソバ粉中のルチン含有量の低下ならびにアグリコンであるクエルセチンの増加が認められている。加圧処理による内生酵素ルチナーゼの活性化が予想されたことから、ルチナーゼ及びβ-グルコシダーゼを指標に試料中の粗酵素の活性を比較した結果、加圧処理した試料ではβ-グルコシダーゼの活性が昂進することを明らかにした。今後はグルタミン酸デカルボキシラーゼ等の他の酵素活性についても調査する予定である。 このほか果実類を用いて、加圧処理を行い、加工特性を評価する実験についても基礎的な知見を得ており、本研究の進捗状況は順調であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
玄米へのカルミン酸添加実験において、加温・中高圧処理かつ処理時間を長くすることで胚乳部への成分の浸透移行性が増すことを明らかにした。平成28年度は処理条件を変えて、処理条件と成分の移行性との相関を明らかにする予定である。 中高圧条件下での酵素活性への影響が示されたことから、玄米及び普通ソバ種子中のグルタミン酸デカルボキシラーゼの酵素活性を調査する予定である。 上記の成果をもとに、果実類を用いて、中高圧処理を行い、β-グルコシダーゼ活性およびポリフェノールオキシダーゼ活性への影響を明らかにする予定である。これらの素材に対しても同様の中高圧処理を行い、抗酸化活性または可食部の成分量を調査し、加工が有効な食品素材を選別する。可食部の成分量に顕著な違いが認められた素材については、外層の構造や水の浸透度及び成分の移行性を明らかにする。また、継時的変化や温度による移行の違いについても比較・検討していく予定である。 以上の研究成果をもとに、各種食品素材への加工適性を評価し、中高圧処理による食品の高機能化と新規加工方法の提案を行いたい。
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Research Products
(1 results)