2015 Fiscal Year Research-status Report
スギ、ヒノキ人工林由来の花粉による繁殖干渉-近縁種への潜在的影響と発生要因-
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26450190
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
向井 讓 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (80283349)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 繁殖干渉 / ヒノキ人工林 / 生殖隔離 / 空中花粉 / 種子の充実率 / 近交弱勢 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の計画は、スギ、ヒノキ人工林由来の花粉がサワラ等の近縁種への繁殖干渉を引き起こすことを直接証明するため、サワラの胚珠内に取り込まれた花粉の種組成の分析を実施することであった。しかしながら、平成27年に研究対象のサワラ、ヒノキともほとんど着花しなかったため、平成26年に採集した資料を用いて研究を実施した。平成26年の花粉飛散終了時に採集した雌花から、胚珠を単離、切開し、マイクロマニュピュレータを用いて胚珠内の花粉の単離し、単離した花粉のDNA分析を実施した。しかし、採集した試料では花粉が既に発芽していたため、完全な花粉として単離することができなかった。また、花粉の一部(断片)を単離してDNA分析を行ったが、年度計画作成時に危惧したとおりネガティブコントロール(単離した花粉の断片を洗浄した水滴)からも標的配列が増幅された。以上から、この実験は現実的には不可能であると判断し、充実率と空中花粉との関連性の解明に研究計画を変更した。 平成26年度に採集したヒノキ人工林からの空間距離や周囲のサワラの立木密度が異なる2カ所各1個体のサワラの自然受粉種子について充実率を調査した。その結果、ヒノキ人工林に近く周囲にサワラの立木がない個体の充実率は7%、天然林内に位置し周囲にサワラの立木が存在する個体の充実率は33.7%であり、ヒノキ人工林との距離や周囲のサワラの密度との関連性を示唆する結果が得られた。また、充実種子のDNA分析を行った結果、ヒノキとの種間雑種は全く検出されなかった。 26年度に採集した空中花粉の試料について追加調査を行った結果、ヒノキ科以外のブナ科やカバノキ科の花粉が多数観察され、人工林由来の花粉だけでなく天然林内の広葉樹の花粉も繁殖干渉を引き起こす可能性があることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
胚珠内に取り込まれた花粉の種組成を分析により繁殖干渉を直接証明することを試みたが、上述したようにサワラ、ヒノキともにほとんど着花しなかったため、新たな研究試料を採集することができなかった。やむを得ず26年度に採集した試料(空中花粉及び種子)を用いて研究を実施した。胚珠から単離した花粉のDNA解析においては、年度計画作成時に危惧したとおりネガティブコントロール(単離した花粉の断片を洗浄した水滴)からも標的配列が増幅された。以上から、この実験は現実的には不可能であると判断し、年度計画を変更し、空中花粉の種組成と充実率との関係を解析し、繁殖干渉の影響の評価を試みた。 花粉トラップを設置した2個体についての調査から、空中花粉の種組成と種子の充実率との関連性が想像されたが、試料数が少なく統計的有意性が得られなかった。さらに、充実率のみの調査では近交弱勢(自殖)の影響と繁殖干渉とを分離できないなど新たな疑問が生じている。以上の理由により、計画より遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に得られたヒノキ人工林との距離、周辺のサワラ立木密度とサワラ自然受粉種子の充実率の関係から、ヒノキ人工林との距離、周辺のサワラ立木密度が自殖率の増加による近交弱勢と繁殖干渉とを通じてサワラ種子の充実率に影響を及ぼす可能性が考えられる。充実率の低下に及ぼす近交弱勢の影響と繁殖干渉とを分離する必要があるため、以下の実験を実施する予定である。 ①新たにサワラ調査用の観測設備3基(2基は単管パイプ製櫓、1基は園芸用脚立)を設置し、ヒノキとサワラの花粉の混合比を変化させた処理区を設定して人工交配を行い、花粉の混合比と充実率の関係を解析する。 ②観測設備周辺に花粉トラップを4カ所設置し、空中花粉を採集して種組成を分析する。 ③花粉飛散終了時にサワラの雌花を採集し、胚珠ごとの受粉率、胚珠内の花粉数の観察を行う。 ④サワラの球果(自然受粉)を採集し、種子の充実率を調べるとともに、ヒノキ科樹種識別マーカー(cpDNA)及び核SSRマーカーを用いて種子の遺伝分析を実施し、ヒノキとの雑種の有無、自殖率を調査する。 ⑤空中花粉の組成、自然受粉における受粉率、胚珠内の花粉数、自殖率、充実率の関係を解析し、種子の充実率の低下に及ぼす繁殖干渉の影響を考察する。
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Causes of Carryover |
平成27年度は、本研究課題の対象樹種であるサワラ、ヒノキがほとんど着花しなかった。このため、調査旅費の使用額が計画を大幅に下回った。また、同様の理由から平成27年度分の研究試料(種子及び空中花粉)が全く採集できず、平成26年度に採集した試料を用いて追加解析のみを実施したため、試薬等の物品費の使用額も大幅に減った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は、サワラ、ヒノキともに着花している。研究計画に記載したように観察及び人工交配用の設備(単管パイプ製の櫓、高さ10m及び6m)を構築するなど次年度使用額を活用して研究実施設備の充実をはかっている。今後、この設備を用いて、空中花粉の採集、人工交配、種子の採集を行うとともに空中花粉や種子のDNA分析などを実施し、昨年度の研究の遅れを取り戻す予定である。
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