2016 Fiscal Year Research-status Report
スギ、ヒノキ人工林由来の花粉による繁殖干渉-近縁種への潜在的影響と発生要因-
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26450190
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
向井 讓 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (80283349)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 繁殖干渉 / スギ、ヒノキ人工林 / 空中花粉 / 受粉率 / 充実率 / 林分環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
サワラ天然木に対するヒノキ人工林由来の花粉による繁殖干渉をサワラの充実率により評価するため、サワラ天然木5個体を対象として、①サワラの自然受粉率および充実率、②比率を変えたヒノキ・サワラ混合花粉の受粉が充実率に及ぼす影響、③サワラ雌花周辺の空中花粉の種組成、④サワラの個体毎の自殖弱勢、⑤サワラ天然木周辺の林分環境の調査を行った。 ①について、花粉飛散終了後のサワラの胚珠をNaOHで軟化した後、押しつぶし法により胚珠内の花粉取込数を観察した結果、受粉率(1個でも花粉を取り込んでいた胚珠の割合い)は38.93(25.0-58.82)%、胚珠あたりの平均取込花粉粒数は0.54個であった。また、個体毎の種子の充実は11.33(0.49-28.4)%であり、花粉制限(無受粉)が充実率低下の最大要因であることが推定された。②、④ついてはサワラ雌花にかけた交配袋が調査期間中の悪天候(強風を伴う降雨)により、飛ばされたためデータを得ることができなかった。また、③については、同様の理由により花粉トラップ(ダーラム型)で補足した花粉が流失し、解析できなかった。次に、⑤について、サワラ天然木から半径20m以内に生育する、胸高直径5cm以上のサワラ、ヒノキおよび落葉広葉樹の個体数および胸高直径を調査し、個体毎の種子の充実率を応答変数、サワラの密度、胸高断面積、ヒノキの密度、胸高断面積、落葉広葉樹の密度、胸高断面積、常緑樹(サワラ、ヒノキ、スギ)の密度、胸高断面積、サワラ母樹の胸高直径を説明変数とした回帰分析をおこない、AICを用いたモデル選択によりサワラの充実率に及ぼす母樹周辺の林分環境の影響の評価を試みた。その結果、母樹周辺のサワラ胸高断面積合計、母樹の胸高直径、周囲の常緑樹密度が有意となったが、いずれも過分散であったため、さらに詳細な調査が必要であると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
サワラ母樹の充実率に直接影響を及ぼす直接の要因として受粉率、繁殖干渉、自殖弱勢が予想される。母樹周辺の林分環境は受粉率、繁殖干渉、自殖弱勢を介して充実率に影響を及ぼす。研究実績の概要に記載したようにサワラ雌花にかけた交配袋が調査期間中の悪天候(強風を伴う降雨)により、飛ばされたため、同種花粉と他種花粉とを同時に受粉することが充実率に及ぼす影響、個体毎の自殖(近交)弱勢の程度を解析することができなかった。また、強風と降雨で花粉トラップ(ダーラム型)で補足した花粉が流失したため、空中花粉の種組成が解析できなかった。このため、繁殖干渉と自殖弱勢の影響をパラメータ化できず、繁殖干渉の影響を評価する適切なモデルが作成できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度末に強風や降雨でも破損しない新素材の交配袋を入手したため、研究実績の概要に記載した②、③、④の調査を再度実施し、他種の花粉の受粉による繁殖干渉、自家花粉の受粉による自殖弱勢が充実率に及ぼす影響を評価し、これらを組み込んだモデルを作成することにより、繁殖干渉がどの様な環境で起こりやすいのかを解明する予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度開発した花粉1粒からのPCR増幅による種判別を用いて充実率調査を行う雌花の近傍の空中花粉の種組成を解析する計画で、サワラ5個体に花粉トラップを設置したが、強風を伴う降雨により、補足した空中花粉が流失したため、DNA解析ができなかった。また、開花前の雌花に交配袋をかけ、混合花粉や自家受粉による人工交配を行ったが、交配袋が風で飛ばされたため、種子を得ることができなかった。このため、DNA解析や種子の解析に関する物品費、旅費が未使用となった。また、研究成果を公表することができなかったため学会旅費や論文出版費も未使用となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
風雨に強い耐水性の高い交配袋を入手できたので、繰り越した研究のうち物品費と旅費とを使用し、混合花粉や自家花粉を用いた人工交配を再度実施するとともに、天気予報で降雨予想される場合は降雨の前に花粉トラップを回収し、DNA分析による種判別をおこなう。また、現在投稿中の論文の出版費や平成29年度の研究成果を含めた投稿予定の論文作成(英文校閲)に使用する予定である。
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