2015 Fiscal Year Research-status Report
冠水の影響下にあるマングローブ樹冠での病原菌・内生菌の宿主への影響
Project/Area Number |
26450201
|
Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
亀山 統一 琉球大学, 農学部, 助教 (30264477)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | マングローブ / メヒルギ / 琉球列島 / 潮汐 / 枝枯病 / 病原菌 / 樹形 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題のうち、まず、自然度の高い西表島浦内川マングローブにおける、メヒルギの枯死枝に随伴する菌類について結果をまとめた。メヒルギ枝の枯死については、これまで、メヒルギ枝枯病の病原としてCryphonectria 属菌が主要な要因であり、これに加えてBotryosphaeria属菌、Pestalotiopsis属菌も関与するものと考えられてきた。今回、上記林分の試料を用いて、Cryphonectria属菌が分離されにくい条件で、枯死枝や、衰退枝の基部などから菌類の分離を試み、ITS領域のシークエンスのBLAST検索により分子同定を試みた。 その結果、枯死枝のうち、肥大成長の始まった茎において優占していた菌類は、Neofusicoccum sp.(おそらくこれまでBotryosphaeria sp.とされてきたもので、最も優占的)、Diaporthe spp.(内生菌と考えられるものを含む)、Cytospora spp.、Neopestalotiopsis spp.およびPestalotiopsis sp.(Pes.群)であり、1枯死枝には1,2の菌類が優占していた。一方、幼若な茎の枯死部では、より多数の菌群が壊死に寄与していた可能性が示唆された。肥大成長を始めた茎よりも細く小さな組織であるにもかかわらず、1つの茎の分離源から多種の菌類が少しずつ分離される事例が多かったが、中でもPes.群の分離率が高かった。枝の基部では、内生菌として出現したことがあり、病原性も疑われる多数の菌群が出現した。 このように、主要な病原菌群の所属が正されたとともに、枯死と萌芽を繰り返す枝の部位と齢によって、寄生菌類相も多様であることが確かめられた。内生菌や腐生菌と思われる菌類が分離された枯死枝では、枯死要因が菌類ではないことが推測され、潮汐の影響を受ける枝の枯死要因の多様性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
沖縄島と西表島の調査地が台風の来襲及び夏期の低降水量など、例年と気象条件が著しく異なったため、既往の成果と比較可能な試料が収集できるようになるまでに時間を要した。さらに、従来行われてきたマングローブ植物の内生菌類の菌叢形態による類別について、分子分類の結果と一致しない例が存在することが複数の優占菌群において明らかになった。例えば、Pestalotiopsis属は、従来、形態により2種が内生するものと考えられてきたが、分子分類の結果、2属3種が枯死枝・衰退枝基部から分離されたことがわかり、その菌叢形態での類別は困難であった。後者はそれ自体、本研究の重要な成果であるが、結果として、分離菌株の正確な類別同定には、より時間と資金を要することとなったので、核心的な知見を最終年度に得られるよう、研究方法・計画を修正して推進しているところである。
|
Strategy for Future Research Activity |
すでにまとまった成果を得つつある西表島に加えて、沖縄島の自然度の高いマングローブのメヒルギをターゲットにして、人為の影響の少ない林分でのメヒルギの枝の枯死現象を集中的に調査検討し、大潮の満潮線上部で樹幹が衰退して特異な樹形を形成する要因および過程について、明らかにしたい。さらに、本年度夏期に気象条件に恵まれるならば、ヒルギダマシの天然分布域である西表島と、導入植物として繁茂している沖縄島で、ヒルギダマシ(メヒルギ同様にテーブル状の樹形を呈する)の枝枯れ現象について検討したい。その場合、さらに対照樹種としてバップマングローブに多いオオハマボウの内生菌および病原菌(枝枯れが見つかった場合)の分離試験について検討する。
|
Causes of Carryover |
2015年は、気象条件が安定せず、マングローブの枝枯病による枯死枝を好条件で得にくい状況にあったため、調査地の毎木調査及び試料採取のための出張を繰り返し、旅費支出が大きくなった。一方、別の外部資金により実験器具を購入することができることとなり、その予算で購入した機材の一部を本研究に共用することができたため、消耗品経費は予定よりも少なくてすんだ。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度は研究の最終年度として、メヒルギの枯死要因の解明に集中して取り組むこととし、下記に条件に恵まれるならば、ヒルギダマシ、オオハマボウについても対象を広げることとして実験計画を立案している。作業量は大きくなるので、消耗品、旅費、学生アルバイトなどにより多くの支出を見込んでおり、次年度使用額をこれに有効に振り当てることができる。
|
Remarks |
特に高校生・学部学生向けに研究について解説している。
|