2014 Fiscal Year Research-status Report
下層植生が繁茂する強度間伐地での正の植物間相互作用を介した広葉樹更新メカニズ ム
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26450212
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Research Institution | Forestry and Forest Products Research Institute |
Principal Investigator |
八木 貴信 独立行政法人森林総合研究所, 東北支所, 主任研究員 (90353888)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
清和 研二 東北大学, 農学研究科, 教授 (40261474)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 樹形発達 / 可塑性 / アロメトリー / 植物間相互作用 / 林冠ギャップ / 列状間伐 / 陽樹 / 陰樹 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、林冠ギャップの形成によって生じた林冠階層構造の不均一性が、森林下層での植物間相互作用に与える影響を、強度間伐による人工ギャップに侵入した広葉樹稚樹の樹形発達に注目して明らかにすることを目的とする。 初年度である平成26年度は、強度間伐施業地への調査区設定、樹形発達追跡個体の選定およびその樹形特性の測定を行った。メインの調査区を、奥羽山脈(岩手県北部)の約50年生カラマツ列状間伐林の伐採列(クマイザサとタラノキを主とする下層植生が繁茂)に設定した。そこに多数の天然更新稚樹の発生が認められた冷温帯高木樹種ウダイカンバを樹形追跡対象樹種にした。 調査対象樹種の基本的樹形特性を把握するため、その樹高に対する、幹基部直径、樹冠厚、樹冠幅のアロメトリー関係を回帰分析した。その結果、ウダイカンバ稚樹では、幹直径、樹冠厚、樹冠幅のどれもが樹高に対して正比例関係を示すこと、すなわち、(幹直径:樹高)の比、(樹冠厚:樹冠幅)の比などの樹形特性に、樹高に応じた変異が存在しないことがわかった。先行研究(Yagi 2009, Canadian Journal of Forest Research, 39: 1186-1196)による、同じく冷温帯高木樹種だが陰樹のブナ稚樹の樹形アロメトリーと比較すると、陽樹であるウダイカンバには、ブナ稚樹に見られた「樹高増加にともなう耐被陰から被陰回避への樹形戦略シフト」が存在せず、樹高の小さい被圧個体でも耐被陰ではなく被陰回避に適した樹形をとることが示された。 以上の結果から、樹高に応じた樹形変異パターンという動的な樹形特性においても陽樹・陰樹の違いが存在すること、樹形戦略シフトの個体発生的パターンもニッチに応じた樹種間変異を示すことが定量的に示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度、調査区設定を完了し、強度間伐によって生じた人工林冠ギャップ内で、天然更新した広葉樹稚樹(ウダイカンバ)の樹形成長追跡を開始できた。追跡対象として、樹高、ギャップ内の位置(ギャップ縁からの距離)がばらつくように、十分な数の稚樹(66個体)を確保できた。 樹形成長の追跡に加え、今後、追跡個体の林冠ギャップ内での位置、光環境、周囲下層植生の繁茂状況を測定すれば、(1) 林冠木が「林床の光環境」と「下層植生の繁茂状況」に与える影響、(2) 「林床の光環境」と「下層植生の繁茂状況」が、「高木性広葉樹の稚樹の成長」に与える影響を明らかにできる。これらを総合すれば、林冠木が「追跡個体 vs. 下層植生」の相互作用に与える影響、すなわち、「林冠ギャップにおいて正の植物間相互作用が広葉樹稚樹の更新に与える影響」(本研究の目的)が検討できる。 研究期間内に、追跡個体のギャップ内位置、追跡個体周囲の下層植生繁茂状況、光環境を測定する見通しは立っていることから、現在までの進展は「おおむね順調」だと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
岩手県北部のカラマツ列状間伐地に設定したメイン試験区では、樹形成長の追跡調査に加えて、樹形成長追跡個体の樹冠直上で全天写真を撮影し、個体の光環境と林冠ギャップ内での位置を測定する。また植生調査によって追跡個体周囲の下層植生繁茂状況を数値化する。 宮城県北部のスギ強度間伐地に設定したサブ試験区では、植生階層構造の調査を行う。当初予定の播種実験は、平成26年度の実地検討の結果、実験による植生攪乱の影響が過大で実施しても良好な結果は期待できないと結論されたため、代わりに実生発生のモニタリングを実施する。「広葉樹更新過程を発芽段階と成長段階とに分離する」という目的を考えた時、天然散布種子の発芽状況を直接モニタリングした方が植生への攪乱を避けることができ、播種実験への投入予定エフォートを転用して調査地点とモニタリング頻度を増やすことで、より良好な結果を得ることができる。
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Causes of Carryover |
林冠ギャップ内での稚樹の位置は、稚樹周囲の物理環境の重要な構成要因であり、平成26年度の調査で、その定量的記述がこの研究の成否を握ることがわかった。全天写真を稚樹の樹冠直上で撮影すれば、ギャップ内での稚樹位置の定量化に使用できる。次年度(平成27年度)は調査対象稚樹の光環境を測定予定だが、全天写真は光環境測定にも利用可能である。全天写真撮影の研究促進効果は大きい。 ただし調査対象としている稚樹は多数なので、全天写真撮影・解析は効率的に実施する必要がある。それを可能にする全天写真撮影・解析システムは高額である。そこで、その購入のために研究期間の助成金使用計画を変更し、次年度に繰り越して購入資金として使用することにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
全天写真撮影・解析システムの購入および調査旅費として使用する計画である。
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Research Products
(2 results)