2016 Fiscal Year Research-status Report
粘弾性と細胞壁成分の多様性にもとづく新たな材質指標の確立
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26450244
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Research Institution | Forestry and Forest Products Research Institute |
Principal Investigator |
山下 香菜 国立研究開発法人森林総合研究所, 木材加工・特性研究領域, 主任研究員 (60353900)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片山 義博 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (10214339)
久保島 吉貴 国立研究開発法人森林総合研究所, 木材加工・特性研究領域, 主任研究員 (40353669)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | スギ / 粘弾性 / ヘミセルロース / 細胞壁 |
Outline of Annual Research Achievements |
スギ辺材の天然乾燥材と95℃人工乾燥材、人工乾燥材を120℃、160℃で熱処理した試料を調整し、熱処理前後にたわみ振動法によるヤング率と損失正接の測定を行い、熱処理後に曲げ試験を行った。この試験体から木粉を作製して、グルコマンナンとアラビノグルクロノキシランを単離し、乾燥・熱処理による細胞壁化学構造の変化を調べた。熱履歴に伴う物性変化は、密度、比ヤング率、比せん断弾性係数ではわずかであったが、熱履歴が増すにつれて比例限度以降の曲げ仕事量は減少した。化学構造は、95℃乾燥材では天然乾燥材に比べてグルコマンナンの分子量分布が高分子側にシフトし、ヘミセルロースのアセチル基が減少した。これは95℃乾燥材でグルコマンナンの高分子化の影響によりアセチル基が溶出しにくくなっているためと考えられた。160℃熱処理材ではグルコマンナンとアラビノグルクロノキシランともに分子量分布が低分子側にシフトし、アラビノグルクロノキシランの陰イオン交換クロマトグラフィー分析では、イオン結合特性が低い低濃度NaOAc溶出画分が増加した。160℃熱処理材ではヘミセルロース分子鎖の切断が生じ、主鎖の開裂にともなってイオン結合特性が変化したことが示唆された。一方、アラビノグルクロノキシランのグルクロン酸の側鎖置換量は乾燥・熱処理条件により殆ど変化しなかった。これらの結果から、乾燥・加熱処理が細胞壁ヘミセルロースの化学構造を変化させること、熱による分子量の低下が木材の力学特性を変化させることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スギ品種リュウノヒゲ辺材を用いて、細胞壁におけるヘミセルロースの構造が、乾燥・熱処理によって変化すること、同時に力学特性が変化する部分としない部分を明らかにした。また、これまでに、ボカスギ、リュウノヒゲ、アヤスギと3品種を用いて樹幹内側と外側のヘミセルロース構造の相違を明らかにしてきている。ただし、乾熱処理材と湿熱処理材の調湿に時間を要しているため研究期間を延長し、最終的には品種や樹幹内部位、あるいは熱処理条件による細胞壁構造と物性の相違を明らかにする。
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Strategy for Future Research Activity |
乾熱処理と湿熱処理を比較することにより、両者が混在する乾燥過程で、ヘミセルロース等の細胞壁に生じる変化と物性の変化に及ぼす水分と熱の影響を明らかにする。これまでの強度試験や振動試験などのマクロな物性評価に加えて、分子構造が影響を及ぼすと思われるミクロな物性評価に取り組む。
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Causes of Carryover |
これまで熱処理材で化学分析を行った結果、ヘミセルロースの集積状態やセルロースとの会合状態といった分子レベルの変化が明らかになってきた。水や熱による細胞壁構造の変化をより深く解明するため、強度試験や振動試験による粘弾性評価に加えて、平衡含水率や熱示差分析などミクロなレベルの物性評価を追加実施する。また、乾熱処理材と湿熱処理材の調湿と物性実験、化学分析に想定以上に時間を要したため研究期間を延長した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
乾熱処理材と湿熱処理材の試料調整、物性試験、化学分析に使用する。最終年度であるため、実験の打合せに加えて、成果のとりまとめの打合せや成果発表に使用する。
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