2015 Fiscal Year Research-status Report
海の牧草スケレトネマの簡便で定量的な同定方法開発とそれを用いた生理生態特性の解明
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26450248
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Research Institution | Fukuoka Women's University |
Principal Investigator |
山田 真知子 福岡女子大学, 文理学部, 教授 (30438303)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片野 俊也 東京海洋大学, その他部局等, 准教授 (00509820)
大坪 繭子 福岡女子大学, 文理学部, 助手 (70336965)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | Skeletonema各種 / 定量的・簡便・安価な定量法 / リアルタイムPCR法 / rDNA / cox1 mtDNA / プライマー / Tm値 |
Outline of Annual Research Achievements |
漁業生産の基礎生産者として多大な貢献をするため「海の牧草」と呼ばれるSkeletonema属について,DNAを用いた分子解析と微細形態解析の両方を併用する同定方法がSarno et al.により2005・2007年に報告された。この方法に従いSkeletonema属各種の同定を行うことは今後の水産研究を展開していく基礎となるが,この方法は高価・煩雑で定量的でないという短所を持っている。そこで,これらを凌駕する手法の開発を試みることとし,H26年度に行った研究をもとに,リアルタイムPCR法によるSkeletonema属各種の定量的評価を,遺伝子マーカーとしてrDNAを用いて行った。プライマーの開発はS. ardens, S. costatum, S. dohrnii, S. grevillei, S. japonicum, S. menzelii, S. pseudocostatum, S. tropicum, S. potamosの9種について,Sarno et al.(2005・2007)が分子解析に用いたSSU rDNAとLSU rDNA(D1-D3)を用いて行った。しかしその結果,これらの領域の塩基配列ではS. menzeliiについてはプライマーを設計できないことが確認されたことから,これら9種のITS,イントロン,および挿入部分の配列を除いたrDNAの全塩基配列(LSU rDNAはD1-D12)の解読を行わねばならないことが判明した。現在,32株のrDNAの全塩基配列の解読を完了し,S. menzeliiを含めたプライマー9種の種特異性をPCRで確認できたところである。なお,S. menzeliiは複数の隠蔽種を持つ種であるが,今回開発したプライマーは我が国沿岸域に出現する種を対象としている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H27年度当初は,用いる遺伝子マーカーとしてcox1 mtDNAを選定し,Skeletonema ardens, S. costatum +S. subsalsum, S. dohrni, S. grethae, S. grevillei, S. japonicum, S. menzelii, S. pseudocostatum, S. tropicum, S. potamos, およびS. sp. cf. pseudocostatum のSkeletonema属11種を対象として,定量的同定法をリアルタイムPCRを用いて検討を行っていた。cox1を選定した理由は,この遺伝子は母系遺伝するので系統関係の検討を行い易く,塩基変異速度が速いため短い進化的時間の中で生じたDNAの変異を効率よく測ることができ, rDNAではS. dohrniiとS. marinoi が別種と誤同定されるのに対しcox1では同種と同定され種の同定に際し精度が高いと判断されたためである。Cox1は,しかし,Skeletonema属の種毎のプライマーを設計して定量性を検討していく過程で,細胞当たりのDNA量が培養期間に応じた細胞活性に対応している可能性の高いことが確認された。今後この特性を活用した結果を汎用していくためには,詳細な研究が必要で,これには多大な時間を要するため限定された期間内で結果を得ることは困難であると判断した。そこで,検討に用いる遺伝子マーカーとしてcox1の利用を断念するに至った。一方,rDNAは,培養期間に関係なく細胞の数のみに対応している可能性の高いことを,予備実験で確認している。そこで,rDNAを遺伝子マーカーに選定して研究を展開し,得られた成果は「研究実績の概要」で報告したとおりである。
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Strategy for Future Research Activity |
Sarno et al.(2005・2007)が報告したSkeletonema属の分類と同定法は,科学の進歩に欠かせない画期的なものと高く評価できる。しかし,この分類や同定法は検証される必要があることから,約10年をかけて筆者らがSarno et al.(2005・2007)の研究成果を検証していった結果,発見と修正の次の2点が明らかなった。①新種が2種(S. potamos, S. sp. cf. pseudocostatum)存在することが確認された。②Sarno et al.(2005・2007)が同定に用いた遺伝子マーカー SSU rDNAとLSU rDNA(D1-D3)のうち,LSU rDNA(D1-D3)はS. dohrniiとS. marinoi が別種と誤まった同定を行なってしまう。LSU rDNAを用いて従来と同様の方法で同定するのであれば,D1-D3領域は用いず,D4-D12の領域が用いられなければならないことが判明した。以上のような検証結果も踏まえて,今後の研究を推進していきたいと考えている。具体的には,rDNA を遺伝子マーカーに用いて,PCR実験で得られたSkeletonema属各種のプライマーのTm値をもとに,リアルタイムPCR法による種特異性と定量性の確認を行っていく計画である。さらに,この実験成果をもとに,野外海水中の栄養細胞や堆積物中の休眠期細胞を定量的に同定する研究を実施していく。なお,リアルタイムPCR法で得た海水中あるいは堆積物中のSkeletonema属各種の組成は,従来のSarno et al.(2005・2007)らの方法(海水中から栄養細胞を単離培養して,あるいは堆積物から休眠期細胞を発芽させ単離培養して同定する)方法を併用して,精度を検証する予定である。
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Causes of Carryover |
研究を継続的に行なうために,実験生物であるSkeletomema属12種を海外株と日本株を合計して約60株ほど,維持培養を続けている。また,実験も並行して行なっており,研究遂行のために,現在,3台の照明装置付き大型恒温器を使用している。この3台とも,耐用年数を越えており,設定温度や照明の維持に不安が生じている。うち1台については,H27年度に修理を行なった。しかし,2台については未修理であるため,次年度の修理に備え,繰越を行なった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究をスムーズに行なえるよう,来るべき故障に備え,点検修理をH28年度に実施する。
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Research Products
(7 results)