2016 Fiscal Year Research-status Report
係留ADCPアーカイブデータを用いた10年規模動物プランクトン変動の復元
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26450250
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
喜多村 稔 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 技術研究員 (00392952)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 動物プランクトン / 北極海 / 音響解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は北極海のデータ解析を行った。北極海は、温暖化の進行に伴って、夏季の海氷域縮小や表層水温の上昇など著しい環境変化が報告されている。このような変動に影響されて、基礎生産力の上昇や魚類分布域の北上など、生態系にも変化が現れているが知見は少ない。これまで、北極海生態系の特徴として、強固なPelagic-benthic coupling(動物プランクトンなど水柱中の動物バイオマスが少ないことに由来して、基礎生産産物のほとんどが沈降してベントス群集を支える)があげられてきた。そこで本研究では、Pelagic-benthic couplingの鍵を握る動物プランクトンについて、気候変動に応答したバイオマス変動があるか否か明らかにすることを目的とした。解析に用いたデータは、チャクチ海(太平洋側北極海)の北部に位置するバロー海底谷において、2000-2003年と2010-2013年それぞれに採取されたアーカイブADCPデータである。海氷状況から、2000-2003年を多氷期、2010-2013年を少氷期と捉えることが可能である。
解析の結果、2000-2003年に比べて2010-2013年は、動物プランクトンの季節的消長パターンは変わらないものの(1)海氷融解期(6-7月)のバイオマス増加速度が上昇、(2)夏季のバイオマスが2倍程度増加、(3)冬季のバイオマスも増加しており、これは越冬成功率の上昇を示唆、(4)年平均バイオマスは1.6倍増加、が明らかにされた。近年、季節海氷が薄くなった影響で融解前にも海氷下で植物プランクトン増殖が活発化されること、融解後の基礎生産力が上昇していることが報告されている。これら餌環境の好転と表層水温の上昇が(1)および(2)をもたらし、さらには油球の蓄積を増加させて(3)に関わると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
北極海において観測されたアーカイブADCPデータを使って、動物プランクトンバイオマスの10年規模変動を定量的に復元することができた。また、衛星観測データより得られた表層水温・海氷密接度・基礎生産力など環境パラメータに関する情報をとりまとめ、動物プランクトンバイオマスの変動と比較した。これらの結果、当初立てられた仮説のように10年間で動物プランクトンバイオマスが増加していることが明らかとなり、その要因(海氷減少による基礎生産力の増加と表面水温の上昇)についても考察することが出来た。研究立案時には、この北極海研究も平成28年度内に論文投稿することを目指した。しかし、バイオマス増加という現象の記載にとどまらず、その増加が持つインパクトを評価したうえで投稿することにしたため、論文投稿タイミングが遅れた。ただし、平成29年度の早い段階で投稿出来る見込みである。そのため進捗状況は「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、北極海で復元された動物プランクトンバイオマスの10年規模の増加が、北極海生態系においてどのようなインパクトを持っているか推定する。インパクト推定にあたっては、観測により得られた水温と混合層深度、適切なモデルを使って推定されたターゲットストレングス(1個体当たりの散乱強度)と個体数密度、ADCPから復元されたバルクバイオマス、個体数密度とバルクバイオマスから推定される平均的な個体体重、既往の経験式、などを用いることにより動物プランクトン群集の摂餌速度を推定し、衛星観測から推定された基礎生産力と比較する。そして、北極海における動物プランクトンバイオマスの10年規模変動とそのインパクトに関する論文をまとめ、投稿を行う。 本科研費研究の遂行中に、西部北太平洋亜寒帯域に設けられた時系列観測点K2(47N, 160E)においても係留ADCP観測が開始された。平成29年7月に係留系が無事に回収されれば、2年分のデータが得られる。本観測点はこれまで長く動物プランクトン研究が進められ、知見の蓄積が進んでいる。そこで、ADCPデータの解析に加えて、有鰾魚類の鉛直分布など音響データに影響を与えうる要因についても取り纏めを行う。 2016年に論文化された亜熱帯測点のアーカイブ係留ADCPデータを用いた研究(Inoue et al., 2016, JGR)、北極海の係留ADCPデータを使って当該年度に行った研究、ADCP以外の音響測器(AZFP)を用いた観測研究を概観する研究発表「音響を用いた動物プランクトン生態研究」を日本地球惑星科学連合2017年大会(2017年5月幕張)にて行う。
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Causes of Carryover |
論文投稿を延期したため、英文校閲費用、カラー印刷費など出版費用、オープンアクセス費用等を支出しなかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
「その他」に組み込んで、上記論文投稿等に使用する。
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