2015 Fiscal Year Research-status Report
除草剤のアマモに対する生態リスク解析-アマモ場の衰退機構解明と再生を目指して-
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26450252
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Research Institution | Japan Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
持田 和彦 国立研究開発法人水産総合研究センター, 瀬戸内海区水産研究所, グループ長 (00371964)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 吾郎 国立研究開発法人水産総合研究センター, 瀬戸内海区水産研究所, グループ長 (40371968)
隠塚 俊満 国立研究開発法人水産総合研究センター, 瀬戸内海区水産研究所, 主任研究員 (00371972)
羽野 健志 国立研究開発法人水産総合研究センター, 瀬戸内海区水産研究所, 主任研究員 (30621057)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アマモ / 船底塗料用防汚物質 / 光合成 / 光化学系II / 代謝物総体解析 / 最大量子収率 / 生長阻害 |
Outline of Annual Research Achievements |
アマモ場再生・維持阻害要因となり得る船底・漁網用防汚物質や陸域由来の除草作用を持つ化学物質の毒性影響を明らかにするため、今年度は光合成阻害作用を示す防汚物質であり、また瀬戸内海沿岸域の海水中から高い頻度で検出されているイルガロール 1051 (Irg) および脂肪酸鎖延長阻害作用を示し、検出頻度や濃度は低いものの瀬戸内海沿岸域より検出されるプレチラクロール (Pret) を対象物質としてアマモに対する毒性影響を調べた。 天然海域から採取したアマモを人工底質に植え、Irg (設定濃度 0.1 - 9 ug/L、公比3)あるいは Pret (設定濃度 1.1 - 90 ug/L、公比3)に流水式で14日間曝露し、光合成能(最大量子収率)、および葉の生長に及ぼす影響を調べた。また、Pret 曝露による葉体内代謝物の変動をメタボローム解析(代謝物総体解析)により調べ、Irg 曝露により認められた代謝物変動との違いについて検討した。 Irg 曝露試験の結果、葉の生長や最大量子収率は曝露濃度依存的な低下を示し、被検物質の実測濃度に基づく14日間半数影響濃度はそれぞれ、2.1 (1.4 - 3.5) ug/L および 0.59 (0.50-0.69) ug/L であった(括弧内の数字は 95% 信頼区間を示す)。これらの結果は昨年度得られた結果とほぼ同程度であり、再現性のある結果であった。Pret 曝露試験については曝露最高濃度区において葉の生長にわずかな影響が認められたが、最大量子収率に対する顕著な影響は認められなかった。また、メタボローム解析によりPret 曝露個体の代謝物変動を Irg 曝露個体と比較したところ、Irg 曝露で認められた曝露濃度依存的な糖類の減少や、イノシトールやアミノ酸の増加傾向は認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究計画は、作用機作の異なる除草剤ごとにアマモに対する毒性を明らかにすることである。今年度は主に、脂肪酸鎖延長阻害作用を示す物質であるプレチラクロールを被検物質としてアマモ親株を用いた曝露試験を実施し、葉の生長や光合成最大量子収率に対する影響、さらに代謝物の変動を調べ、生長や光合成最大量子収率に対してイルガロールのような強い毒性は示さないこと、また、糖やアミノ酸等の代謝物については顕著な変動は認められないという結果も得られた。さらに、当初計画にはなかったが、天然のアマモ場において、株密度や光合成最大量子収率の季節的変動について調査した結果、夏場の高水温時に株密度はほぼ最大になるものの、最大量子収率の減少が認められ、高水温によりアマモがストレス状態にあることを反映していることが示唆された。また、関連する内容を国内の学会において 2 件発表した。以上を鑑み概ね計画通りに進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究計画は、昨年度に引き続き作用機作の異なる除草剤ごとにアマモに対する毒性を明らかにするとともに、瀬戸内海沿岸域に数点より海水をサンプリングして除草剤の分析を実施し、それぞれの物質のアマモに対する生態リスクを相対的に明らかにすることである。特に、微小管重合阻害作用を持つ物質について研究を推進する。微小管重合阻害を持つ物質の影響についてはチューブリンに対する抗体を用いた免疫組織化学法や蛍光標識チューブリン等を用いて、重合阻害作用を持つ物質の曝露による微小管構造の変化を数値化し、影響評価を実施する予定である。また、イルガロール曝露個体に観察された代謝物の変動が光化学系 II 阻害に特異的な現象であるか明らかにするために、暗黒下飼育あるいは高温処理によりストレスを与えた個体についても代謝物の変動を解析し、それらの特徴をイルガロール曝露個体において観察された代謝物の特徴と比較、検討する予定である。また、瀬戸内海沿岸域の数点より海水をサンプリングし、ガスクロマトグラフ質量分析計あるいは液体クロマトグラフ質量分析計を用いて、除草剤や、除草作用を示す防汚物質の濃度を明らかにし、毒性値と比較することで、アマモに対する生態リスクを解析する。
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Causes of Carryover |
今年度は栄養代謝阻害や微小管重合阻害を引き起こす物質群について主に毒性試験を実施する予定であったが、特に、微小管重合阻害を引き起こす物質群については予備的な試験を実施するにとどまった。従って、これらの試験で必要となる試薬や器具類を購入するための経費が繰り越しとなってしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初計画では、栄養代謝阻害や微小管重合阻害を引き起こす物質群については引き続き毒性試験を実施し、さらに、瀬戸内海沿岸域における除草剤の濃度について調査、分析を実施する予定である。残額分についてはこれらの試験で使用する予定である。また、昨年度毒性試験に使用した送液ポンプが数台故障したため、これらの修理あるいは新調にも使用したいと考えている。また、平成28年度については計画の変更は特にないため、当初の要求額通り、毒性試験に必要な試薬類、学会参加旅費や調査旅費、および試験の補助に必要な人件費等に使用する予定である。
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