2014 Fiscal Year Research-status Report
カジカ個体群間の産卵期変異を通じた地域個体群の固有性の明示と保全
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26450277
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Research Institution | Gifu Prefectural Research Institute for Fisheries and Aquatic Environments |
Principal Investigator |
藤井 亮吏 岐阜県水産研究所, 下呂支所, 専門研究員 (70455525)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古屋 康則 岐阜大学, 教育学部, 教授 (30273113)
棗田 孝晴 茨城大学, 教育学部, 准教授 (00468993)
田原 大輔 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (20295538)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カジカ / 産卵期変異 / 生殖周期 / 地域個体群 |
Outline of Annual Research Achievements |
岐阜県内の長良川支流1河川、飛騨川支流2河川、庄川支流2河川、神通川支流1河川、九頭竜川支流1河川、および福井県南川から得られたカジカ大卵型親魚を岐阜県水産研究所内で飼育し、産卵実験を行い、2月下旬から4月下旬にかけての産卵を確認した。このうち、長良川支流片知川および飛騨川支流和良川では産卵開始が2月下旬であったのに対して神通川支流高原川では3月末、庄川支流馬狩谷および六厩川、九頭竜川支流石徹白川では4月上旬であり、産卵期は個体群によって異なり、岐阜県内だけであっても産卵開始時期に2か月近くの差が見られた。これは、水温や日長など成熟に関わる条件を同一として飼育しても、水系や地域によって異なる産卵期が変わらず、それぞれの個体群固有のものであることを示している。さらに、これまでの産卵試験のデータから、産卵期の相違は数年にわたり維持されており、遺伝的に固定されている可能性が示唆された。 産卵期が個体群によって異なる要因として、それぞれの生息環境の違いが考えられる。生息地の環境として標高および積雪量との関係を調査したところ、標高が高く、積雪量が多い地域の個体群で産卵期が遅くなる傾向が見られた。また、岐阜県および近郊の個体群について遺伝的分化がどの程度であるかmtDNAのcytb領域を用いた集団構造の解析を開始し、九頭竜川水系と長良川水系の個体群では、同一のハプロタイプに加え、それと数塩基違いのハプロタイプが各河川で見られ、それぞれが遺伝的に分化している可能性が示唆された。これらのことは、地理的に近い場合でも、生息地の環境が異なる場合にはそれぞれの集団が環境に適応するように分化している例として考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カジカ種群の異なる河川の個体群、異なる地域の個体群、それぞれの組み合わせに対して同一環境下(飼育環境)で産卵させ、子世代についても飼育・産卵実験を行い、産卵期の相違を明らかにすることが目的の一つである。これまでに、地域変異の大きいと思われるカジカ大卵型を中心に、実験親魚を確保、産卵実験により、産卵期の相違に関する知見を蓄積した。また、得られた卵をふ化させ、子世代を用いた産卵実験に向けて飼育を行っている。 また、個体群間の産卵期の相違に関して組織学的な裏付けを行うために、天然魚および同一条件下で飼育した個体の組織観察を行う計画であるが、天然魚に関しては一部個体群で生殖周期が明らかにされ、現在飼育中の個体の解析を加えることにより、目的とする産卵期の相違を、より明らかにすることができると考えている。 さらに、各個体群の産卵期と生息環境、遺伝的差異との関連を検証することも目的の一つとしている。関連する生息環境としては水温等が考えられるが、関連が見出せそうな気象等も含めて解析を行っている。遺伝的差異についても、個体群の固有性について地域間や水系間での検討に着手している。 このように、目的を達成する過程として、順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き飼育実験用親魚の確保を行い、飼育環境下での産卵について個体群数、観察例を増やし、データの蓄積を行う。27年度以降に成熟を迎える子世代の飼育魚も順次産卵実験に供し、ふ化から同条件で飼育した場合に個体群ごとの産卵期が維持されるかどうかを調査する。産卵期の速い群、遅い群、および中間的な群の代表的なものの子世代の飼育を行っているところであるが、産卵、ふ化の状況によって子世代の確保が難しい個体群については、ふ化からあまり時間のたっていない当歳魚を採取し、それを成熟まで飼育することによって、補完を行う計画であり、当歳魚の飼育もすでに開始している。 産卵実験に加えて組織観察から産卵期の裏付けを行う計画である。これまでに、那珂川水系相川個体群、南川個体群について生殖周期が明らかになっているが、これを基準とし、産卵期の異なる個体群について、天然魚サンプルの解析、比較を行い、産卵期の相違を明らかにする。このとき、産卵期の遅い個体群では、積雪により冬季のサンプル確保が困難となることも予想されるが、飼育魚で代替する予定である。このため、天然魚の生殖周期が明らかとなっており、ふ化から飼育した個体が確保できている南川個体群を用いて、天然魚と飼育魚の生殖周期を比較し相違があるかを調査することを考えている。これに引き続き、産卵期の異なる個体群について子世代同士で組織学的に比較を行い、個体群による産卵期の固有性を明らかにしたい。 産卵実験を行っている個体群を中心に、生息地の水温データの収集を進め、産卵期と水温、および気候等の環境条件との関連を検討する。また、遺伝的集団構造の解析を進め、産卵期の多様性、生息環境の相違、遺伝的分化の関係性について考察する計画である。
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Causes of Carryover |
本研究では、産卵実験と仔魚からの飼育を行いそれをさらに実験に供する計画としているため、当初計画から2年目の研究費を多く計上している。研究対象としているカジカは早春から春にかけて産卵が行われ、産卵期に関する研究の中心的な時期は年度をまたぐ状況である。研究費の使用に当たっては効率的な調達、使用に努めるとともに、研究を効果的に推進するため、産卵等の状況を見ながら、年度が替わってからの必要な研究に研究費を振り向けることとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究の中心となる2年目にあたり、本格化する調査、実験等に必要な物品の購入、調査旅費等に、前年度未使用とした研究費も含め、効果的に使用していく計画である。
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Research Products
(2 results)