2014 Fiscal Year Research-status Report
畜産農家間の風評被害発生メカニズムと低減方策としてのリスクコミュニケーション
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26450300
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
宮崎 さと子(窪田さと子) 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教 (90571117)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 風評被害 / リスクコミュニケーション / 家畜感染症 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、家畜感染症を発端とした風評被害に焦点を当て、特に畜産農家間の不安から発生する損失とその発生メカニズムについて明らかにし、適切なリスクコミュニケーション方法について示唆を導くものである。 本年度は、畜産農家間の風評被害の実態とその損失の大きさについて明らかにすることを課題とした。特に、地域的な人間関係の密接度であるパーソナル・ネットワークやソーシャル・キャピタルなど地域コミュニティに関連する指標を用い、家畜感染症や届出感染症が起こった場合(または起こったと想定した場合)の風評被害との関連性について明らかにしている。これらを把握するために、畜産(酪農・肉牛・養豚)を行っている農家を対象としたアンケート調査を実施した。 地域内の親密な人間関係として最もその程度が高いのは地域内の同業者であり、次に農協職員、担当獣医師が続いた。ただし、その関係性には若干違いがあるようであり、娯楽を中心とした付き合いが多いのは地域の同業者、仕事上での結びつきが強いのは獣医師、その両者を兼ね備えかつ信頼が高いのが農協職員であった。人間関係の醸成と信頼の形成には強い相関があると考えられる。 家畜伝染病・届出伝染病が起こった場合(または起こったと想定した場合)の地域内での課題について、20%の畜産農家が「付き合い方の変化」、具体的には村八分の状態や責任のなすり付け合いになることを懸念していた。「付き合いの変化」を懸念している農家とそうでない農家のそれぞれの人間関係を精査したところ、地域内の同業者や農協職員と親密であるほど不安視していることが示された。こういった「付き合いの変化」は、農家が共同で作業を行う牧草収穫や堆肥づくりにも影響を与えると考えられ、家畜感染症・届出感染症の発生による間接的な損失が発生していることが示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
風評被害定量化を目的とした経営分析を予定していたが、個別経営体の選定に時間を要したことから進捗状況としてはやや遅れている。しかし、調査対象地域の関係者の紹介により経営体の選定は進んでおり、研究遂行に問題はない。
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Strategy for Future Research Activity |
風評被害の定量化及びそのメカニズムを把握することを課題とする。 定量化は、家畜感染症・届出感染症発生後「清浄化」を迎えた後でも続くと考えられる風評被害の損失を把握し、リスクコミュニケーションや政策的含意の必要性を明瞭にするうえでも必要である。 以上の風評被害による定量化を行った上で、そのメカニズムについて、経営主のリスク認知、リスク認知に影響を及ぼすとされる個人要因、環境要因と地域内関係者との付き合いの変化との関係から明らかにしていく。 人々のリスク認知は一般的に低めに見積もられていることが既往研究により明らかにされている。風評被害は、もともと低めに見積もられていた当該問題に対するリスク認知が、不確実性の程度や情報量などによって通常よりも高くなり発生するものと考えられる。そこで、アンケート調査を実施することにより、心理的なバイアスがかかった家畜感染症のリスク認知を明らかにしていく。また、風評被害は時間の経過とともに変動することが、昨今の食品事故による消費者購買行動の変化から容易に予測できる。したがって、過去の損失の状況や過去の損失が起こってからの経過年数も調査項目として加えることとする。以上の要因と、個別経営体が引き起こした(また、その可能性のある)地域内関係者との付き合いの変化から風評被害のメカニズムを解明する。
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