2014 Fiscal Year Research-status Report
農業労働力の流出と州別所得格差の変化―インドネシアのセンサスデータによる分析
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26450327
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
本台 進 神戸大学, 国際協力研究科, 名誉教授 (70138569)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 和敏 長崎県立大学, 経済学部, 准教授 (40304084)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 労働過剰 / 労働分配率 / 所得格差 / 生存水準 / 未熟練労働力 / 転換点 / GDP成長率 |
Outline of Annual Research Achievements |
インドネシアにおいて、農業労働力の流出と人口成長率の減少が所得格差に及ぼす影響を分析することを目的として研究を実施してきた。その研究結果の内容は次のようなる。 国全体の経済発展段階は、農業においてはまだ労働過剰であり、労働過剰から労働不足への転換点を超える以前である。そのため、労働力は、農業・非農業間賃金格差や非農業GDP成長率により弾力的に農業から移動している。この2つの変数のうち、後者の方がより強く移動に影響することが分かった。このため非農業GDP成長率が高い所へ大量の労働力が移動していて、所得格差に以下のような影響を及ぼしている。 まだ労働過剰であるため、農業・非農業ともに未熟練労働力の賃金率はほぼ労働力の生存水準によって決り、貧困ラインで基準化した実質賃金率は上昇していない。そのため労働移動によっても、労働分配率は農業・非農業ともに上昇せず、所得格差はまだ拡大している。しかし2005年以降の非農業GDPの成長は著しく、労働移動は大量で、全労働力に占める農業労働力の割合は2012年には約35%程度となった。さらに農業における土地無し労働者や無給家族労働者の数も2008年頃から急速に減少してきた。 その結果、全国で33ある州のうち、6州では実質賃金率の上昇が始まっていた。さらにそのうち1州では既に転換点に到達し、労働分配率の低下が止まり、所得格差改善の兆しが観察された。 1993年に公表されるようになって以来、所得格差の拡大傾向は続いてきた。そしてこの拡大傾向は止まらないのではないかと懸念されていた。しかし本研究において、労働過剰から労働不足の転換点を超えれば、労働分配率が上昇し、所得格差拡大が止まり、縮小へ向かうことが確認できた。これが解明された意義は大きく、分析結果により得られた所得格差是正への政策的な含意は非常に重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究計画において、第1は分析フレームの構築、第2は分析に必要なデータの収集、第3は農業・非農業間における州毎の労働移動の推計、第4は1991年から2012年の労働移動の変化、労働分配率の変化、所得格差の変化の相互関連の分析、をすることであった。 第1の分析フレームに関しては、州別に、労働移動量を計測する手法、労働が過剰かどうかを分析する手法、労働過剰と労働分配率の関係を分析する手法、労働分配率と所得格差の関係を分析する手法、を構築した。これらの手法に基づき、第2のデータの収集に入った。必要とされる主なデータは人口センサス調査個票、社会経済調査個票、労働力調査個票であり、一部を除いて入手できた。入手できなかった調査票は、2010年人口センサス調査個票の一部で、まだ公開が制限されている部分であった。 第3の州毎の労働移動の推計については、1991年以降の移動量を労働力調査個票により推計が可能となった。第4の分析に関しては、まず農業部門の労働分配率を計測した。非農業部門は幅広い経済活動を包括するため満足するデータが得られず、製造業の労働分配率を計測することで代替した。これら労働分配率の変化と労働過剰、さらに労働分配率の変化と所得格差の関連を分析した。 上述の分析により、農業から多くの労働力が移動しているが、国全体としてはまだ労働過剰であり、そのため労働分配率が低下し、所得格差が拡大していることが分かった。しかし州別に見ると、まだ1州のみであるが、労働過剰から労働不足の転換点に到達し、所得格差改善の兆しが観察された。 上述のように一部分のデータが入手できなかったが、他のデータを代替利用することにより、おおむね初年度の研究計画に記載した分析を実施し、重要な政策的に含意のある結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年以降については、先ず社会経済調査の原本のうちパネルデータとして整備されたセットのうち2002年から2004年分1組および2005年から2007年分1組の入手に着手する。パネルデータを利用する理由は、農業労働力の移動が起こらなかった場合の所得格差の変化と、実際の所得格差の変化の差を求めるためである。これにより移動による所得格差の変化を明らかにする。 州別所得格差の変化のうち、人口成長率低下や農業労働力流出に起因しない部分について、所得格差が起こる要因を教育レベル、就業する産業、性別、年齢層などの世帯主属性に分解し、各属性の所得格差への寄与度を分析する。 さらにパネルデータを利用し、家族構成員の移動がどのように起こるかを分析する。すなわち移動が起こる場合に、移動者個人の属性、その世帯の属性、世帯を取り巻く経済状況などの影響をプロビット法により分析し、どのような属性や経済状況の場合に移動が起こるかを分析する。実際に家族構成員が移動した後の所得の変化を分析し、移動による影響を明らかにする。 最後に、通常の調査データの分析結果とパネルデータの分析結果を総合して、農業労働力移動による所得格差変動分、人口成長率低下による変動分、それ以外の要因による所得格差変動分に分け、農業労働力移動による変動分の含意を検討する。
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Causes of Carryover |
2010年人口センサスの原本である個票をインドネシア統計庁より購入する予定であった。しかし、その一部がまだ未公開であったため、購入できなかった。そのため次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度には、2010年人口センサス原本個票のうち既に公開されているが未購入分と2015年労働力調査個票のデータにより分析ができるように、分析フレームを修正する。この修正分析フレームを基に、公開されている2010年人口センサス原本個票の未購入部分と2015年労働力調査個票のデータも購入する。
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Research Products
(5 results)