2015 Fiscal Year Research-status Report
農業労働力の流出と州別所得格差の変化―インドネシアのセンサスデータによる分析
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26450327
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
本台 進 神戸大学, 国際協力研究科, 名誉教授 (70138569)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 和敏 長崎県立大学, 経済学部, 准教授 (40304084)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 労働分配率 / 労働過剰 / ルイスの転換点 / 所得格差 / クズネッツ仮説 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、経済発展過程における所得格差発生のメカニズムを理論的に明らかにし、その理論を基に、なぜインドネシアの所得格差がまだ拡大しているかを分析することを目的とする。 そこで格差拡大要因の解明を試みるが、インドネシアにおいて蓄積された時系列データは約30年分とわずかである。そのため次のような分析方法を採用し、データの不十分さを補ってきた。先ず、インドネシア国内にある34の州を経済発展の速い州と経済発展の遅い取り残された州に分け、それらを対比する。更にインドネシアの経済発展過程は、日本における1950年代までの発展過程に非常によく似ているため、日本の経験と対比しながら、所得格差メカニズムの解明を行ってきた。その結果、これまでに次のようなことが分かってきた。 農業部門に労働過剰が存在するときに、農業または非農業のどちらの部門であっても、労働生産性の上昇と共に労働分配率は低下する。労働分配率の低下は、生産された付加価値の分配において、労働者の取り分を減少させ、資産保有者の取り分を増大させる。これが所得格差を拡大させる要因となる。 さらに経済が発展し、ルイスが定義した労働過剰から労働不足への転換点を超えると、労働生産性の向上と共に労働分配率が上昇する。換言すると労働者の取り分が増加し、逆に資産保有者の取り分が減少する。それにより所得格差が縮小する。すなわち、インドネシアにおいてはこれまで労働分配率の低下を通して所得格差が拡大したことが実証され、この結果はクズネッツ仮説に実証的な根拠を与え、その仮説を理論化する要素の一つとなることと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度における中心的研究内容は、農業労働力の流出が起こらなかった場合の所得格差の変化と、実際に流出が起こった所得格差の変化の差を求め、労働力流出による所得格差の変化の大きさを測ることであった。これにより流出が所得格差に及ぼす影響を明らかにすることができる。 この作業のために、先ず実際にどの程度の労働力移動が起こったかを把握し、州別に農業からの労働移動がどのように起こっているかを分析した。さらに移動が非常に弾力的、すなわち農業からの労働供給曲線がほぼ水平的であったことを確認した。最後にまもなく転換点を通過しそうな州と、まだ転換点よりかなり以前にある州を比較し、労働移動にどのような差異があるかを分析した。その結果、まもなく転換点を通過しそうな州においては、貧困ラインを基準にした農業の実質賃金率は上昇し始めるが、それ以外の州における実質賃金率の上昇はほとんど観察されないことが分かった。 以上のように、おおむね初年度の研究計画に記載した分析を実施し、政策的に含意のある結果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度には、「インドネシア社会経済調査」と「Indonesia Family Living Survey」のデータを利用し、家族構成員の農業から非農業への移動がどのように起こるかを分析する。すなわち移動が起こる場合に、移動者個人の属性、その世帯の属性、世帯を取り巻く経済状況などの影響をプロビット法により分析し、どのような個人や世帯の属性、及びそれらを取り巻く経済状況により移動が起こるかを分析する。さらに家族構成員が移動した後に、世帯所得がどのように変化するかを分析し、移動による影響を明らかにする。これについては研究代表者と研究分担者が共同して分析に当たる。 最後に、両データセットの分析結果を総合して、所得格差の変動を農業労働力流出による変動分、人口成長率低下による変動分、それ以外の要因による変動分に分け、農業労働力流出による変動分による含意を検討する。
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Causes of Carryover |
2010年人口センサスの原本である個票の一部がまだ未公開で、購入できないことが分かり、インドネシア現地での調査を一回中止したためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2010年人口センサスについては、原本の一部未公開分が将来において公開されるかどうかは不明である。これが公開されない場合でも、代わりのデータとして次の二つのデータを利用し、今後の分析を進めることが可能となった。その一つは、「インドネシア社会経済調査」の調査原本である。もう一つは、アメリカのRAND研究所が調査した Indonesia Family Living Survey のデータである。これらを入手し、2010年人口センサスデータの不足分を補う。
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Research Products
(5 results)