2015 Fiscal Year Research-status Report
沿岸農地における塩分ストレスのリスク予測と農業生産レジリエンスの向上
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26450345
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
弓削 こずえ 佐賀大学, 農学部, 准教授 (70341287)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
濱上 邦彦 岩手大学, 農学部, 准教授 (20571699)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 湿害 / 洪水解析 / 地下水解析 / 土壌水分動態 / 湛水被害 |
Outline of Annual Research Achievements |
水域ユニットにおいては,干拓農地に縦横に走る水路網を対象に,大雨の際の幹線水路の流動解析を行うモデルを構築し,農地への影響を影響を明らかにした.まず,対象における用排水系統を現地調査によって明らかにするとともに,河床勾配などの基礎的なデータを収集した.モデルのインプットデータを得るために,水路の複数箇所に水位計を設置し,水位の連続データを得るとともに,降水量などの基礎的な気象データを収集した.また,大雨の際の水門操作やポンプによる強制排水などの人為的操作を聞き取り調査によって明らかにし,これをモデルに反映させて,より現実に即した解析を行った.その結果,大雨の際に溢水のリスクが高い地点を解明し,湛水状況を予測することができた.また,幹線水路に接続する支線水路や暗渠への流動も推定し,干拓農地への影響を評価した. 地下水ユニットにおいては,大雨の際の幹線および支線水路からの溢水に加え,暗渠への逆流現象を考慮し,干拓農地一帯の地下水動態解析を行った.解析結果の妥当性を検証するため,農地に地下水位計を設置して連続観測を行い,計算値と実測値の比較を行った.また,大雨後の高い地下水位を平常時の状態に戻すための手法について具体的に検討した. 水域ユニットおよび地下水ユニットが明らかにした大雨の際の湛水状況と地下水位の変動を境界条件とし,作物圃場における土壌水分動態解析を行った(農地ユニット).この結果を検証するために,実際の作物圃場において湛水や地下水の上昇に伴う湿害のリスクを定量的に評価し,農業生産性が受ける影響を予測した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,年間を通じて水路などの水域と,農地における現地調査を実施し,データを蓄積することができた. 現地の水路に水位計を追加し,精度の良い水位の連続データを蓄積することができた.また,調査対象地区の行政機関や土地改良区から水位データの提供を受けることができ,さらには水門や排水ポンプの稼働状況などに関する情報を収集することができた.これらのデータによって,水路網の流動解析を行うためのモデルを構築することができた. 陸域の農地においては,前年度から収集している土壌水分や各種気象要素のデータを蓄積することができた.現地で採取した土壌サンプルを用いて各種土壌物理試験を行い,土壌水分状態をより精緻に把握し,土壌水に含まれる塩分状態を把握することが可能となった.さらに,新たに地下水センサーを体調地区内にすることで,様々な作物の生育期間における地下水位および地下水中に含まれる塩分濃度の連続データを収集することができた.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,引き続き現地調査を実施して,水路,地下水および農地における各種データを収集し,それぞれの研究ユニットで構築したモデルにインプットするためのデータの充実を図る.モデルの精度向上に努めるとともに,各ユニットで構築した手法を結び付け,干拓農地の生産性に生じる複合的なリスク予測を行う手法の確立し,持続可能な農業生産の方向性を検討することを目指す. 今年度は,干拓農地に縦横に走る水路の流動特性を明らかにするモデルを構築し,大雨時における洪水解析を行ったが,来年度はこれに塩分などの輸送も考慮し,水質の変動を予測する手法に改良することを目指す.これを用いて,農地に表面および地下からからの塩分の浸入過程について明らかにする. 農地においては,表面または地下からの水分および塩分状態を境界条件とし,農地に浸入する塩分の動態解析を行うモデルを構築する.これを用いて,加湿または乾燥によって作物に生じる水分ストレス状態を定量的に評価するとともに,塩害のリスクについても予測し,これらを回避するための対策について具体的に検討する. さらには,これまでに各研究ユニットにおいて個別に構築したモデルを有機的に結び付け,干拓農地の水域および陸域の水循環および物質循環を包括的に評価する手法を構築することを目指す.以上によって,集中豪雨,海域の水況変化,地下水位の上昇および連続干天など,様々な要因によって農地に生じる水分および塩分ストレスのリスクを圃場レベルから広域レベルにかけて予測して,干拓農地における生産性への影響を多角的に評価することを目指す.
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