2015 Fiscal Year Research-status Report
野草地の放牧利用はモズの生息状況を向上させるか?-モズを指標とした生物多様性評価
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26450394
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
岡本 智伸 東海大学, 農学部, 教授 (70248607)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樫村 敦 東海大学, 農学部, 助教 (10587992)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | モズ / バッタ目 / 生物多様性 / 半自然草地 / 放牧 / 野鳥 / 牧畜 / 野草地 |
Outline of Annual Research Achievements |
野草地を活用した畜産において,その生産の基盤を支える生物多様性が豊かな生態系の維持が不可欠である。生物多様性の評価には,高次消費者の生息状況が重要な判断材料となる。モズ(Lanius bucephalus)は草地生態系の高次消費者であり,種多様性の指標ともなる。そこで放牧利用されている野草地におけるモズおよびその餌となる動物の生息状況を調査し,草地の利用管理との関係を明らかにする。 熊本県阿蘇中央火口丘西麓に位置する野草地(短草型および長草型)および人工草地周囲の有刺鉄線において,モズの食痕である,はやにえ(餌の突き刺し保持)された動物種と数量の季節変動を調査した。加えて主たる餌資源と考えられるバッタ目の生息状況について調査した。さらに,目視および自動撮影によるモズの出現頻度についても調査した。 はやにえは1月から9月上旬までは少なかったが,その後9月中旬から増加しはじめ,11月下旬から12月上旬にかけて最大となり,その後漸減した。モズの出現頻度は1月から4月まで漸増し,5月から6月に最大となった。その後出現頻度は低下したが,9月までに再び増加しその後漸減した。はやにえとモズの出現動態を併せて考えると,はやにえが増加する時期はモズの年間の生活型において闘争期から単独生活期に入る時期と一致すると推察された。はやにえの出現数を植生間で比較すると短草型野草地の周囲で有意に多かった。また,モズの出現頻度も同様の傾向にあった。はやにえされた動物種はバッタ目,コウチュウ目,チョウ目などの昆虫,その他の節足動物,環形動物,小型脊椎動物など多岐にわたったが,全体の7割以上をバッタ目が占めた。生体捕獲調査から得られたバッタ目の出現量や種組成は植生で異なり,はやにえの出現傾向と類似した。バッタ類の窒素含有率の種間差は少なく,栄養価よりも体サイズが餌としての価値に大きく影響すると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,モズの生息状況,および餌資源の供給状況を指標として野草地の生物多様性を評価することを目的としている。 今年度は,昨年度に引き続き異なる草地植生間でのはやにえの量と質の検討を行い,季節性およびその植生間での差異などについて調査年数を重ね研究精度を高めた。また,主たる餌資源と考えられたバッタ目の種組成および出現量さらに栄養価や餌サイズについても継続して検討し,植生間での相違点などをさらに深く検討した。さらに,今年度ではモズの直接的な観察も加えて本種の生息状況の把握を補完し,はやにえの季節的な増減についてモズの生活型の季節変化と併せて検討すると同時に,植生間でのモズの分布の相違についても知見が得られた。 以上のように,今年度に計画した研究内容はほぼ遂行し,次年度以降の研究計画につなげるための基盤が構築できたと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
調査地および研究室が熊本地震による被害を大きく受けており,申請時における今年度の研究実施計画を一部変更せざるを得ない。現地調査をこれまでと同様の頻度で実施することは難しい状況にあるので,可能な範囲で補完データを取得し,これまでのデータと併せて分析することで解析精度の向上を図る。また,3年間のデータを利用し総合的に次の解析を行う;1)植生とモズの時空間分布との関係,2)地形とモズの時空間分布との関係,3)放牧利用に伴う植生とモズへの餌資源供給機能との関係。これらの解析結果を基に,モズのハビタット機能に影響を及ぼす主たる要因を抽出する。さらにモズを指標として放牧による野草地の生物多様性の保持機能を評価する簡便な手法を検討するとともに,野草地の適正な放牧利用管理の方策を考究し提案する。
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Causes of Carryover |
次年度においては,実験計画の継続に加え,最終年度であるため研究のとりまとめなどの費用が必要である。次年度の交付額は申請額よりも少ないため,研究計画の遂行のために不足すること予測された。このため,今年度の予算執行を熟考しながら進め,次年度に使用できる予算を計画的に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究遂行に必要な観測装置,試薬,器具,データ記録媒体などの消耗品購入,ならびに論文投稿などにおいて不足する金額に充当して使用する計画である。
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