2014 Fiscal Year Research-status Report
マウスES細胞の酸化ストレス応答におけるABCトランスポーター・Bcrp1の役割
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26450460
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
三谷 匡 近畿大学, 先端技術総合研究所, 教授 (10322265)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ABCトランスポーター / ES細胞 / 酸化ストレス応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、幹細胞機能との関連が高いことが予想されるABCトランスポーター・Bcrp1に着目し、その作用として酸化ストレス応答による品質管理について、マウスES細胞のH2O2曝露による解析をモデルに検証を行うことを目的とする。本年度は以下の研究を行った。 1.SP細胞と非SP細胞亜集団におけるBcrp1およびc-Mycの発現動態: マウスES細胞中のSP細胞亜集団は非SP細胞亜集団と比較して、Bcrp1、特にBcrp1 mRNAアイソフォームAの発現が有意に高く、その転写制御因子であるc-Mycについても同様に有意に高い発現を示した。また、SP亜集団はBcrp1特異的阻害剤Fumitremorgin Cにより消失することから、ES細胞におけるSP細胞亜集団はBcrp1依存的に生成することが示された。さらに、Sox2 の発現はSP細胞亜集団で有意に高かったが、Oct3/4, Nanog については有意な差は認められなかった。また、他のABCトランスポーターであるMdr1 やMrp1の発現についても高い傾向がみられた。 2.野生型ES細胞におけるH2O2曝露後のBcrp1およびc-Mycの発現動態: マウスES細胞をH2O2曝露後2~6時間でウエスタンブロット解析したところ、c-Mycの減少、リン酸化c-Mycの増加とBcrp1の増加がみられた。さらに、定量的RT-PCR解析により、Bcrp1、特にBcrp1 mRNAアイソフォームAの発現が上昇する傾向がみられた。また、c-Mycの発現が増加する傾向がみられた。 マウスES細胞におけるSP細胞亜集団の生成因子がBcrp1であり、その発現をc-Mycが制御していることが示された。さらに、H2O2に対するBcrp1の応答について、c-Mycの転写誘導とc-Mycのリン酸化によるBcrp1の転写亢進がなされていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、本研究課題の初年度であり、Bcrp1の幹細胞における役割として酸化ストレス応答に着目し、その可能性についての検討に着手した。しかし、幹細胞モデルとするES細胞ですらBcrp1高発現のSP細胞と低発現の非SP細胞の亜集団に分けられ、それぞれにおけるBcrp1の発現制御様式については知見に乏しい。特に、我々がこれまでに見出したmRNAアイソフォームまで踏み込んだ先行研究はみられない。そこで、本研究の背景となる基礎データを取得することを優先し、ES細胞中のSP細胞と非SP細胞におけるBcrp1の動態について、アイソフォームの発現とアイソフォームAの誘導に関わるc-Mycの発現を比較検討した。その結果、ES細胞中のSP細胞亜集団の生成はBcrp1の発現に依存し、さらにアイソフォームAとその誘導因子であるc-Mycの関与が示された。これらの基礎データの取得のため、研究計画より進捗はやや遅れてはいるものの、SP細胞でのBcrp1アイソフォームとc-Mycの位置づけを確認できた意義は大きく、本研究課題におけるBcrp1、特にアイソフォームAの発現と機能の視点の重要性が示された。 本研究で作製予定のTet-on誘導型Bcrp1発現ならびにノックダウンES細胞については、上記の検証を優先して実施したために準備が遅れているが、ES細胞へのTet-on調節ベクターの導入に着手している。また、ES細胞におけるROS制御が分化誘導に及ぼす影響については、体外分化誘導過程における未分化関連遺伝子(Oct3/4, Nanog, Sox2など)や3胚葉への分化マーカー遺伝子(Brachyury, Gata-4,Sox-1など)の発現の変動をRT-PCRおよびqRT-PCRにより解析中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果より、マウスES細胞におけるSP細胞亜集団の生成因子がBcrp1であり、その発現をc-Mycが制御していることが示された。さらに、H2O2に対するBcrp1の応答について、c-Mycの転写誘導とc-Mycのリン酸化によるBcrp1の転写亢進がなされていることが示された。これらの結果は、Bcrp1が幹細胞、特にSP細胞に付与する特殊な機能として、酸化ストレス応答による品質管理の可能性を裏打ちするものだと考えられ、この研究のさらなる展開を図っていく。具体的には、平成27年度以降は、以下の研究を計画する。 1.誘導型過剰発現/ノックダウンES細胞におけるSP細胞の生成とBcrp1の発現・局在:Tet-on誘導型Bcrp1発現ES細胞及び誘導型ノックダウンES細胞を作製し、SP細胞集団の生成とBcrp1タンパク質の発現・局在を解析する。 2.酸化ストレス応答におけるBcrp1の役割: Bcrp1は、PPIXの排出を介して活性酸素レベルを調節し、DNAの損傷やミトコンドリアの電子伝達系における活性酸素の消去に関与している。そこで、野生型ES細胞を用いて、FTCによる阻害実験等も含め、H2O2曝露の有無による細胞内PPIXの局在、GSHレベル、ROS濃度、DNA損傷等の多角的な評価系の設定を行う。 3.過剰発現/ノックダウンES細胞におけるROS制御が分化誘導に及ぼす影響: 誘導型Bcrp1発現/ノックダウンES細胞を用いて、体外分化誘導過程における未分化関連遺伝子や3胚葉への分化マーカー遺伝子の発現の変動をRT-PCRおよびqRT-PCRにより解析する。 最終的に、Bcrp1によるES細胞の品質管理機構や分化スイッチについての解明と応用利用技術の開発をめざす。
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Causes of Carryover |
当該年度の助成金残額が少額となったため、継続的な研究計画遂行上、年度内に使用するよりも次年度へと繰り越した方が適切であると判断したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究課題は、幹細胞工学、遺伝子導入・発現解析、細胞応答研究等の要素から構成されている。次年度の研究費については、遺伝子発現解析、タンパク質発現解析、細胞応答研究など、遺伝子発現を解析するための抗体やプローブ、オリゴヌクレオチド、分子生物学研究・細胞生化学研究試薬として使用する。また、次年度は、発現ベクターの作製等を計画しており、ES細胞への遺伝子導入に係る分子生物学的研究試薬、ES細胞の培養試薬等として使用する。また、次年度に使用する予定の研究費として、13,068円を計上した。当該研究費については、本年度の研究計画の中で上記の使用目的において適切な物品の調達には額が満たないことから、研究費の有効かつ十分な活用を鑑み、次年度の研究開始にあたり使用する物品費に組み込む予定である。また、連携研究者との研究進捗状況の確認や情報交換、研究成果発表などの旅費として使用する予定である。
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