2015 Fiscal Year Research-status Report
森林流域での流木動態を組み込んだ懸濁態栄養塩の流出解析
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26450481
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
芳賀 弘和 鳥取大学, 農学部, 准教授 (90432161)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 流木 / 除去実験 / 濁度 |
Outline of Annual Research Achievements |
森林地帯を流れる小河川には,流木の集合体(ログジャム)が存在することが多い。ログジャムは,流下する土砂や落葉などを一時的に堰き止めるため,水の流れや水質に影響を与えうる要素として重要である。本研究では,ログジャムが懸濁態栄養塩の濃度に与える影響を明らかにするために,これまでに流木の除去実験を行い,流木の除去に伴う水の流路内一時貯留と濁度の変化について分析した。具体的には,ログジャムの骨格要素(大きな流木)の隙間を塞ぐ目詰まり要素(小さな流木)を除去し,平水時の食塩水トレーサの到達速度を6つの流路区間(ユニット)を対象として調べるとともに,出水時の流量-濁度関係を調査区間(リーチ)の上端と下端において調べた。この結果,流木の除去前よりも除去後の方が到達速度が速くなることがわかった。除去前の流量が除去後のそれの約2倍に相当する時であっても,これと同様の結果となるユニットがあった。河川測量の結果,このようなユニットでは河床が低下し,河床勾配が増大していることが確認され,到達速度の違いは流木除去に伴う河床変動の違いと密接な関係があることが示唆された。他方,濁度については,出水時における濁度の上昇は,流木除去前と除去後のいずれであっても,リーチ下端の濁度の方が高かった.また,除去前後の比較では,リーチ下端の濁度は,除去前であればほとんど変化しないような小規模出水であっても除去後には大きく上昇した(1~2桁くらい高い濁度となった)。これは,流木除去に伴ってログジャムに貯留されていた土砂が不安定化し,わずかな流量上昇に対しても反応する土砂が流路内に多く出現したことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,コントロール流域と処理流域を設け,「両流域のキャリブレーション(1年目)」,「流木除去(2年目)」,「流木投入(3年目)」の順に処理する計画であったが,1年目の豪雨の影響でコントロール流域を設けることができなかった。そこで,申請時に代替手法として考慮していた単独流域法を用いる計画に変更し,2年目の研究に取り組んだ。 2年目は,流木除去の前後におけるNaClトレーサーの希釈実験を行い,流木の除去が流路内での水の一時滞留に与える影響を調べた。また,濁度計による濁質成分の流出特性を調べた。流木除去の前後における懸濁態栄養塩の流出量変化については,直接測定していない。しかしながら,懸濁物質と懸濁態栄養塩の流出パターンが同調するというこれまでの観測結果を考慮すれば,濁度計のデータから懸濁態栄養塩の流出パターンを推測することが可能と考えている。また,濁度計を水深の浅い(<10cm)小河川で運用する際の適切な設置方法について検討することができた。 以上より,本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後(3年目)は,これまでに行ったNaClトレーサーの希釈実験の結果を対象に流路内での水の一時滞留過程を組み込んだ一次元移流分散モデルを用いて解析するとともに,流木の投入実験によって変化することが予想される流量-濁度関係について把握する。 流木の投入実験では,投入後の流木の移動や滞留の状況がわかるように追跡し,時間の経過に伴う流木の流下物捕捉効果の変化を評価する。この結果と流量-濁度関係の解析結果を統合し,流木動態に基づく懸濁態栄養塩濃度の推定モデルを提示する。
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Causes of Carryover |
データの精度管理の点から,初冬(河岸が雪に覆われている状態;1月頃)の河川流量と濁度のデータを吟味した上で,当該研究に関連する論文,特に濁度の形成に関連する論文を投稿する準備をしていた。しかしながら,この時は記録的な少雪となり,積雪が1か月以上も遅れてしまった。その上,現地の河川水量が下がりすぎたこと,濁度計の出力が不安定になったことが重なり,目的とするデータを得るタイミングが春以降にずれてしまった。このため,当該論文の投稿に関連する予算として確保していた分を次年度使用することになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の現地の状況から判断すると,5月以降に起こる比較的大きな降雨によって,河川水量と濁度計のデータを吟味できると思われる。このため,夏までには予定していたデータの精度管理を終えて,準備中の論文を投稿する見通しである。これにより,予定通りの内容で助成金を使用することができる。
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