2015 Fiscal Year Research-status Report
酸素運搬能の高いミオグロビンによる人工酸素運搬体の創出
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26460031
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
根矢 三郎 千葉大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (10156169)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 優章 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 講師 (90506891) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 人工血液 / ミオグロビン / ピリジンポルフィリン / 鉄原子 / 配位構造 / 酸素親和性変化 / 芳香族性出現 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請は、人工酸素運搬体の創製を意図するもので、今から20年後には医療現場で起こるといわれる輸血液不足に対応することを念頭に置いている。 平成27年度は、ポルフィリンの分子骨格構造を大幅に組み替える実験を行った。ポルフィリン鉄の機能は、まわりを取り囲む5角形のテトラピロール4分子にある窒素原子4個との相互作用で規定されている。この相互作用を大きく変えれば、ミオグロビンの機能が激変することが期待される。今までにこのような試みが、生体分子で行われた例は稀有であり、生物無機化学的観点からも興味深い。そこで、平成27年度は具体的に、テトラピロール分子のうち、2分子のピリジン分子に入れたポルフィリン類似分子を合成した。このような分子は、過去に合成例がなかったので、構造化学的側面からも関心が持たれていた。申請者は、ピリジン環を中心分子として、両端にピロール分子をもつトリピラン分子をまず合成した。この分子に別の5,5’-ジホルミルピリジンを反応させると最終目的物質であるピリジン2分子で置換しポルフィリンを合成することができた。驚いたことに、この分子は類例をみないメカニズムで芳香族性を示すことが判明した。その原因として、ピリジン環が一部分だけ還元された局所飽和構造が生まれており、対角位にあるもう一つのピリジン分子は、ケトーエノール化による酸化が起きていた。還元および酸化された2分子のピリジン環の相互作用による芳香族化が起きているという、前例のない仕組みで芳香族性が誘起されていた。この結果は、欧州の有機化学専門誌Eur. J. Org. Chem.で受理され、多くの反響をよんだ。この分子は、金属結合部位の面積が広く、ミオグロビンの機能改変のためのツールとして使えることが十分予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度には昨年度の金属置換法とは異なる新規方針で研究を進めた。すなわち、ミオグロビンの酸素親和性を下げるために、新しいポルフィリノイドの合成を試みた。全くの新物質であるため、その合成には時間がかかったものの、最終的には合成が完成して、その方法を論文として報告できた。また、これに関連して、ミオグロビン内部にあるヘムと取り巻きグロビンの相互作用を分光学的手段で解析した。この実験は、ミオグロビンの酸素制御構造因子を追及する目的で行った。CD分光法を主な測定法として多用した解析であり、その研究成果をJ. Phys. Chem. B (2015)119, 1275-1278に正論文として発表できた。また、鉄ポルフィリンを四重鎖DNAに結合させた新規物質をつくり、一酸化炭素結合状態での配位構造を明らかにして、成果をBiochmistry (2015) 54, 7168-7177で発表できた。こちらの成果は、全く新規なDNAを用いた人工酸素運搬創製の手がかりをつかんだと期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究では、ミオグロビンの酸素親和性を大きく変えると思われるピリジン2分子をもつポルフィリンの合成に成功した。そこで、この分子の鉄錯体をつくり、ミオグロビンに組み込んで酸素結合能を測定してみたい。 また、平成27年度に実施したCDスペクトルを用いたヘムーグロビン相互作用の詳細な解析から、ヘムーグロビン間にある多数の原子間接触が機能を制御しうる可能性をみつけたので、この方面に向けた研究も進める計画を立てている。さらに、ヘムとDNA複合体の配位構造も解明できたので、その配位子結合能力についても研究を展開する予定である。 申請書に記載した、超分子構造をもつ有機ナノチューブについては、合成が難しく、多量の試料を確保するのに苦労が今も続いている。しかし、有機ナノチューブへのミオグロビン封入すると、ヘモグロビンが赤血球膜に封入されているのと同等な状況がつくり出せるので、こちらの研究も続けていく予定である。
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Causes of Carryover |
研究進展状況の変化により、試薬代および実験器具購入費が、当初見積もりよりも低く抑えることができため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は研究が順調に展開すると予想されるので、昨年度に使用しなかった36万円余は使い切る予定である。
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