2015 Fiscal Year Research-status Report
薬物代謝酵素の立体構造および柔らかさは遺伝多型によってどのように変わるか?
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26460034
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
小田 彰史 金沢大学, 薬学系, 准教授 (50433511)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 薬物代謝酵素 / 遺伝多型 / 計算化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度に引き続きシトクロムP450 (CYP) の遺伝多型がタンパク質立体構造および物性に与える影響について、分子シミュレーションを用いて解析した。今年度は主にCYP1A2について検討を行った。前年度においてはタンパク質全体の立体構造および物性について評価したが、今年度は活性部位の構造や分子認識機構に注目して解析を行った。CYPはタンパク質中央部に比較的大きな活性部位ポケットを有し、様々な基質を認識することが知られているが、実験的に得られた結晶構造の中にはこの部位に水分子を有するものもいくつかある。この水分子の役割について分子シミュレーションで評価し、基質認識に際しては重要な役割を果たしている可能性が示唆される一方で、阻害剤の認識に際しては必ずしも必要ではないことが示された。さらに同じようにポケット内に認識されるリガンドであっても、基質と阻害剤では認識機構に差があることを動的性質も交えて評価した。また、N-アセチルトランスフェラーゼ2についてもアセチル基が補酵素Aに付いている場合とシステインに付いている場合の両方についてシミュレーションを行い、遺伝多型が補酵素の認識や活性部位ポケットの形状に影響を与えることを評価した。 さらにこのような検討をするためのツールであるタンパク質-リガンドドッキングソフトウェアについて、設定を様々に変化させた場合のベンチマークテストについても行った。これによって目的に応じて適切な設定でドッキング計算を行うことが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、いくつかの薬物代謝酵素について、タンパク質単独での性質のみならず、基質や阻害剤、補酵素などを含んだ複合体としての構造および物性の推定に成功している。さらには薬物代謝のいくつかの段階を模したモデル構造でのシミュレーションも行っており、薬物代謝酵素について複数の視点で解析することができている。また、単に静止構造を見るだけでなく、構造の揺らぎによって相互作用ネットワークが生じたり消えたりする様子についても追うことができており、動的性質の重要性についても見出している。これらの点から、おおむね当初の予定通り順調に進展しているものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の結果をふまえ、さらにいろいろな分子種を対象として分子シミュレーションを行う。また、これまでに計算を行った分子種に関しても、複数の基質や阻害剤を用いた計算を展開し、分子認識機構についての一般的な知見が得られないか検討する。特に水分子を介した相互作用ネットワークについては、本年度の研究でその重要性が示唆されたため、他の複合体についても同様のことが起こりうるかを調査する。遺伝多型においてはアミノ酸残基の変異が、その変異から遠く離れた部位にまで影響を及ぼすことを見出しているが、多様な分子種の多様な変異体について検討を行うことで、それら影響を分類することが可能であるかどうかについても検討する。それによって、莫大な数が存在する遺伝多型に関して統一的に評価するための基盤を構築できるのではないかと期待できる。
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Causes of Carryover |
年度末に購入した物品について、当初の予定金額よりわずかに安価に購入できたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額がごく少額であるため、物品・旅費ともにおおむね当初の申請通り使用し、その際の消耗品費に次年度使用額を計上する。
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