2014 Fiscal Year Research-status Report
タクロリムス血中濃度測定に加えCYP3A5遺伝子多型解析を行う意味はあるのか?
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26460189
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
新岡 丈典 秋田大学, 医学部, 講師 (20722276)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | タクロリムス / CYP3A5遺伝子多型 / TDM / 腎移植 |
Outline of Annual Research Achievements |
下記研究成果を第50回日本移植学会総会および論文(Int J Mol Sci. 2015, 16: 1840-54)で発表した。 【研究成果】タクロリムス(以下FK)の体内動態はCYP3A5遺伝子多型に影響を受けることが知られている。しかし、CYP3A5遺伝子多型がFKの体内動態に及ぼす影響に関して、腎移植後の効果発現時期やその程度については明らかにされていない。そこで、CYP3A5遺伝子多型のFK投与量に及ぼす術後早期における影響の経時的変化について解析を行った。本検討では、固定投与量(0.2mg/kg/日)でグラセプター(1日1回投与のFK徐放性製剤)の投与を開始した50名の患者を対象とした。FKの投与量はトラフ濃度に基づいて調整された。移植前、移植後1、2、3および4週目(以下ステージ)において、FKの投与量を目的変数、CYP3A5遺伝子多型、年齢、性別、各ステージにおける体重や臨床検査値の患者要因を説明変数とし多変量解析を行い、各要因の寄与率を算出した。患者の平均体重は57.9±13.0kg、CYP3A5遺伝子多型は*1/*1:*1/*3:*3/*3 = 4:13:33であった。FK投与開始後24時間目の投与量で補正した血中濃度は、*1アレル保有者群と比較し*3/*3群で有意に高かった(0.59 vs. 0.97 ng/mL/mg、P<0.001)。各ステージにおける投与量に対する体重の寄与率は、84.2%、38.9%、10.3%、10.7%および12,8%であったのに対し、CYP3A5遺伝子多型の寄与率は、0%、0%、7.2%、18.4%および19.5%であった。移植後4週目(トラフ濃度目標値:8ng/mL)における投与量の中央値は、*1アレル保有者群で0.21mg/kg/日、*3/*3群で0.13mg/kg/日だった(P<0.001)。FK投与直後から、血中濃度はCYP3A5遺伝子多型の影響を受け、4週目におけるCYP3A5遺伝子多型別にみた投与量の間には明らかな差が認められた。以上の結果から、移植前のCYP3A5遺伝子多型解析結果は、腎移植後のFK個別化投与設計における有用な情報となりうると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
血中濃度治療域が狭いタクロリムス(FK)の投与設計を行う際、薬物治療モニタリング(TDM)は必要不可欠となるが、TDMに加えCYP3A5遺伝子多型解析を行うメリットについては議論の余地がある。したがって、免疫抑制薬TDM標準化ガイドラインにCYP3A5遺伝子多型解析の有用性に関する十分なエビデンスを示すまでには至っていない。本研究の目的は、日本人の腎および骨髄移植患者の術後FK免疫抑制療法において、CYP3A5遺伝子多型解析は有用か否か明らかにすることである。 上記の研究目的を達成するために施行された「タクロリムス至適投与量に対する決定要因の経時的検討」において、腎移植患者のFK血中濃度には、投与開始直後から確実にCYP3A5遺伝子多型の影響が及んでいる事が明らかとなり、FKのトラフ濃度は、CYP3A5*1アレル保有者群と比較し、*3/*3群において有意に目標域に到達しやすいことも判明した。また、0.2mg/kg/日で投与を開始すると、CYP3A5*1アレル保有者群のFKトラフ濃度は低めに推移し、急性拒絶反応の発現頻度も同群で高い傾向にあることが判明した。本検討において、腎移植患者のFK免疫抑制療法におけるCYP3A5遺伝子多型解析の有用性を証明できたことから、本研究の目的の一部は達成できたと思われる。加えて、現在骨髄移植患者におけるFK血中濃度と腎機能障害との関連についてもCYP3A5遺伝子多型別に解析が進められており、*3/*3群で腎機能障害発現の割合が高い傾向が認められていることから、腎移植患者と同様に骨髄移植患者のFK免疫抑制療法におけるCYP3A5遺伝子多型解析の有用性も証明できると予想される。以上のことから、本研究における1年目の目標は概ね達成できたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は以下(①~③)に示す、薬物動態(PK)-薬力学(PD)-遺伝薬理学(PGx)に関する検討を行う予定である。 ① 骨髄移植患者を対象に、タクロリムス(FK)1日1回投与製剤(QD)投与時における、FK血中濃度と腎機能障害との関連、さらにはアゾール系抗真菌薬併用の影響について、CYP3A5遺伝子多型別に比較しながら検討を行い、その成果を学会および英語論文で発表する予定である。 ② ループス腎炎患者を対象に、FK1日2回製剤(BID)投与時における、FK血中濃度と腎機能障害との関連について、CYP3A5遺伝子多型別に比較しながら検討を行い、その成果を学会および英語論文で発表する予定である。 ③ 膠原病患者を対象に、イトラコナゾール併用前後におけるFK血中濃度に及ぼすCYP3A5遺伝子多型の影響および腎機能障害発現のリスク要因に関する検討を行い、その成果を学会および英語論文で発表する予定である。 ②および③に関しては、当初の研究計画における対象疾患には含まれていなかったが、FKの薬物動態とCYP3A5遺伝子多型との関連を検討するうえで、今後極めて重要と思われる疾患と考えられることから、本領域における検討を追加することとした。これら①~③の検討結果に基づき、今後本領域の免疫抑制薬物療法におけるCYP3A5遺伝子多型解析の有用性が明らかになることが期待される。これらの研究を遂行するために、既に秋田大学医学部倫理委員会の承認を得ており、かつ必要な症例数は現時点で十分確保されている。今後、各患者のCYP3A5遺伝子多型解析(6986A>G )を行い、PK-PD-PGx解析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
研究は概ね順調に進行しており、差額も僅かである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
従来の計画通り研究を遂行していく予定である。
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