2014 Fiscal Year Research-status Report
脂質代謝異常の分子メカニズム-脂質メディエーター制御因子の形態学的解析-
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26460265
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
中野 知之 山形大学, 医学部, 助教 (00333948)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 脂質代謝異常 / ジアシルグリセロールキナーゼ / 脂肪細胞 / 肥満 |
Outline of Annual Research Achievements |
Diacylglycerolはtriglyceride(中性脂質)合成の中間産物であると同時に、protein kinase CやTRPチャネルなどを活性化する脂質性二次伝達物質として機能する。研究代表者はこれまでdiacylglycerolのリン酸化酵素、diacylglycerol kinase(DGK)の病態における発現・機能の解析を行ってきた。本研究はDGK遺伝子欠損マウスを用いて、代謝疾患の病態解明を通してDGKの脂質代謝機構における分子機能的役割を解明することを目的として行うものである。平成26年度はDGK遺伝子欠損マウスを高脂肪食で給餌し、表現系の異常を解析した。DGK遺伝子欠損マウス(alpha, epsilon, zeta型)を高脂肪食で40日間給餌した結果、epsilon型欠損マウス(DGKe-KOマウス)は野生型マウスに比べて有意に体重が増加することが明らかとなった。この際、精巣上体周囲白色脂肪組織の増加が顕著であることから、DGKe-KOマウスは高脂肪食負荷に対して脆弱な形質を有することがわかった。このプロセスにおいて、同マウスでは中性脂質分解酵素のタンパク発現が減弱していることが明らかとなり、これが肥満の直接的な原因であることが示唆された。一方で肝臓においても脂肪滴の沈着が亢進していたが、肝重量に関してはWTマウスとの間に差異は認められなかった。高脂肪給餌マウスに関する耐糖能試験の結果、高グルコースレベルの遷延が認められたことから、DGKe-KOマウスは耐糖能異常を呈することが判明した。以上の高脂肪食給餌によるDGKe遺伝子欠損マウスにおける表現系の異常を国内外の学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の実験計画は「基礎データとして得ている動物実験のデータを確証し、仮説を検証すること」である。DGK遺伝子欠損マウスのうち、epsilon型欠損(DGKe-KO)マウスを高脂肪食で40日間飼育すると、野生型(WT)マウスと比較して体重の増加が顕著であることを10個体以上の実験により確認した。同様に白色脂肪沈着が同マウスで有意に亢進することを十分な個体数(15匹以上)のマウスで確認した。さらに、組織学的解析からDGKe-KOマウスの白色脂肪組織における脂肪滴の大きさはWTマウスよりも有意に大きいことを明らかにした。脂肪細胞数増加の可能性については、PCNA抗体によるウェススタンブロット解析の結果から否定された。さらに耐糖能試験により、通常食給餌ではDGKe-KOのグルコースレベルはWTマウスのそれを下回るが、高脂肪食給餌群においては上回ることが明らかになり、高脂肪給餌によりDGKe-KOマウスにおいて血糖調節機構に異常が生じていることが判明した。以上の結果から動物個体数を増やして追試した結果、本研究プロジェクト申請時における基礎データは再現性があることが確認された。 さらに、申請時に提唱した仮説の検証を行った。DGKe-KOマウスにおける脂肪蓄積の原因として、脂肪合成の亢進もしくは脂肪分解の機能不全が考えられる。この点に関して、中性脂質(Triglyceride)をdiacylglycerolと脂肪酸に分解する過程で中心的な役割を果たすATGL(Adipose Triglyceride Lipase)のタンパク発現変化を解析した結果、高脂肪食給餌条件下においてDGKe-KOマウスの白色脂肪ではATGLのタンパク発現がWTマウスに比べ、大きく低下していることが明らかになった。 よって、仮説は正しいと考えられることから、本研究は計画通りに進行していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に得られたDGKe-KOマウスを用いた結果のうち、血糖調節機構の異常が、インスリン分泌の低下によるのか、もしくはインスリンシグナルの異常によるのかを以下の点に着目して明確にする。①血中インスリンレベルの定量②インスリンシグナル関連分子の発現レベルの解析 さらに動物実験の結果をin vitroの実験系で再現することを平成27年度の目的とする。DGKe-KOマウスでは高脂肪食給餌によって白色脂肪における脂肪沈着が亢進する時、脂肪細胞数の増加ではなく、細胞内の脂肪滴の増大がその本態であった。そこで、以下の二つの実験系を用いて、DGKe遺伝子欠損状態における脂肪滴増大のメカニズムを明らかにする。①脂肪細胞前駆細胞(3T3L1)を成熟脂肪細胞に分化させ、siRNAでDGKeをノックダウンする。②DGKe-KOおよびWTマウスの白色脂肪組織からコラゲナーゼ消化法によって脂肪細胞前駆細胞を単離し、①と同様に分化させる。これらの成熟脂肪細胞をパルミチン酸存在下で培養することにより、「高脂肪食給餌」をin vitroの実験系で再現し、以下の点に着目した解析を行う。①DGKe欠損状態におけるATGL発現低下の分子メカニズムの検討:ATGLの発現に関わる上流シグナルの解析と細胞内局在変化の詳細な観察を行う。②DGKe欠損状態におけるインスリンシグナル異常の有無の解明:細胞をインスリンで刺激した時のシグナル分子の発現解析を行う。 以上の実験により、脂肪細胞におけるDGKe遺伝子欠損による脂質代謝異常の分子メカニズムを明らかにする予定である。
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Research Products
(7 results)