2015 Fiscal Year Research-status Report
伸展負荷による血管平滑筋細胞死の分子機構の解明と全く新しい大動脈解離予防薬の開発
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26460345
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
吉栖 正典 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (60294667)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小澤 健太郎 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (80507393)
京谷 陽司 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (10706534)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 動脈解離 / 血管平滑筋細胞 / 細胞死 / 伸展負荷 / 分子機構 / ケモカイン |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢化社会の今日、動脈硬化性疾患の増加は著しくその対策は急務である。なかでも急性大動脈解離の致死率は高く、多くは緊急手術以外に救命する手段はない。大動脈解離の発症に、血圧急上昇が関与している可能性があるが、その詳細な分子機構は不明である。 最近、血管平滑筋細胞への機械的刺激が、アゴニストに依存しないアンジオテンシンII受容体の活性化を引き起こすことが報告された。このことは、機械的ストレスによって細胞内シグナルが変動することを示唆している。一方、以前より我々は、培養血管平滑筋細胞を用いた実験で、酸化ストレスや低酸素負荷などが細胞内シグナルを変動させ、細胞増殖や細胞死をもたらすことを報告してきた。 これらの研究成果を背景に、「大動脈壁の中膜を構成する血管平滑筋細胞に対する急激な伸展負荷が、アポトーシスを含む細胞死を招いて大動脈解離を引き起こすのではないか?」という新規仮説を着想した。予備的実験として、シリコンチャンバー上で培養した血管平滑筋細胞に、急激な血圧上昇に相当する伸展負荷をかけたところ、時間依存的な細胞死が観察され、我々の仮説が正しいことが裏付けられた。昨年度の研究ではカルシウム拮抗薬のアゼルニジピン、アンジオテンシンII受容体拮抗薬のロサルタンが、急激な伸展負荷による血管平滑筋細胞死を抑制する事を見い出した。 本年度の研究では、cDNAマイクロアレイ解析により、急激な伸展負荷により血管平滑筋細内である種のケモカインの発現が亢進していることを見い出した。その後の検討により、このケモカインは急激な伸展負荷による血管平滑筋細胞死を抑制する方向に作用している可能性を確認している。 今後、その分子メカニズムを解明し、降圧効果に依存しない、全く新しい大動脈解離の発症予防薬を開発することを目標として研究を継続させる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、1)急激な伸展負荷による血管平滑筋細胞死の細胞内分子メカニズムの解明による治療標的分子の同定と、2)治療標的分子をターゲットとした、降圧に依存しない全く新しい大動脈解離の発症予防薬の開発の2段階からなる。 我々は最近の研究で、血管平滑筋細胞への酸化ストレスや低酸素負荷によって細胞内のMitogen-Activated Protein (MAP) キナーゼ familyが活性化され、細胞増殖や細胞死などを引き起こすことを明らかにしてきた。 予備的実験として、シリコンチャンバー上で培養した血管平滑筋細胞に、急激な血圧上昇に相当する伸展負荷をかけたところ、時間依存的な細胞死が観察され、我々の仮説が正しいことが裏付けられた。昨年度の研究ではカルシウム拮抗薬のアゼルニジピン、アンジオテンシンII受容体拮抗薬のロサルタンが、急激な伸展負荷による血管平滑筋細胞死を抑制する事を見い出した。その細胞内メカニズムとして、細胞死に関わるといわれるMAP キナーゼのJNKとp38の活性化の抑制が示唆された。 本年度の研究では、cDNAマイクロアレイ解析により、急激な伸展負荷により血管平滑筋細内である種のケモカインの発現が亢進していることを見い出した。その後の検討により、このケモカインは急激な伸展負荷による血管平滑筋細胞死を抑制する方向に作用している可能性を確認しており、研究はおおむね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、1)急激な伸展負荷による血管平滑筋細胞死の細胞内分子メカニズムの解明による治療標的分子の同定と、2)治療標的分子をターゲットとした、降圧に依存しない全く新しい大動脈解離の発症予防薬の開発の2段階からなる。 本年度の研究では、cDNAマイクロアレイ解析により、急激な伸展負荷により血管平滑筋細内である種のケモカインの発現が亢進していることを見い出した。その後の検討により、このケモカインは急激な伸展負荷による血管平滑筋細胞死を抑制する方向に作用している可能性を確認している。 本研究では、急激な伸展負荷による血管平滑筋細胞死の分子機構に関わる治療標的分子としてケモカインを同定した。今後は、このケモカインを標的分子として全く新しい大動脈解離の発症予防薬を開発することを目標として、in vitroとin vivoの両面から研究を進めていく。 具体的には、1)同定したケモカインの特異的阻害薬やレンチウイルスによるshRNA導入遺伝子発現阻害によって、伸展負荷による血管平滑筋細胞死が増悪するか否かを検討する。2)大動脈瘤発症モデルマウスを用いたin vivoでの実験で、ケモカインの特異的阻害薬やshRNAの遺伝子導入により、大動脈解離の発症が増加するか否かを検討する。 これらの実験を通じて、ケモカインが急激な伸展負荷による血管平滑筋細胞死の抑制因子になることが明らかになれば、新たな動脈解離予防薬の開発に道が開かれる。
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