2017 Fiscal Year Research-status Report
糖尿病におけるインスリン治療が引き起こす高血圧症の原因解明と回避方法に関する研究
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26460346
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
野部 浩司 昭和大学, 薬学部, 教授 (30276612)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹之内 康広 川崎医科大学, 医学部, 助教 (30582233)
加園 恵三 城西大学, 薬学部, 教授 (90177387)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 糖尿病 / 高血圧症 / インスリン / 血管平滑筋 / 血管内皮細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題研究では、糖尿病病態下におけるインスリン治療が、糖尿病患者の血圧を上昇させる原因となる可能性を明らかにし、そのメカニズムを解明することを目的としている。 平成26-28 年度の本課題研究においては、streptozocin (STZ) 誘発の糖尿病モデルマウスを用いて、糖尿病がマウスの血圧にどのように影響し、さらにインスリンによる血糖低下治療がどのように影響を与えるか検討を続けてきた。それにより糖尿病病態下においてインスリン投与を開始すると血圧が有意に上昇する現象を確認した。この現象は、糖尿病病態下のみで引き起こされる特異的な現象であることが確認され、インスリン投与開始から血圧上昇現象が認められるまでの期間は2日間と比較的短いことも明らかとした。 平成29 年度においては、インスリンによる血圧上昇現象メカニズムについて検討を進めた。血圧上昇を引き起こす主要な要因として、血管内皮細胞由来の一酸化窒素 (NO) 産生能低下と、血管平滑筋細胞の過収縮が挙げられる。そこで摘出血管組織標本を用い、アセチルコリン誘発の一酸化窒素合成酵素 (NO synthase: NOS) 活性化を介する弛緩反応について、その阻害薬による影響を検討した。しかしながら、糖尿病病態下におけるインスリン投与が、この弛緩反応に影響しなかった。さらに血管内皮細胞を除去した標本においても、インスリン処理を行った血管組織において過収縮が認められたことから、インスリンによる血圧上昇現象には、血管内皮細胞機能の低下による NO 量低下は大きく寄与していないことが明らかとなった。これに対して、受容体刺激を介さない 50 mM KCl 誘発収縮反応については、インスリンによる影響に差が認められなかったことから、インスリン投与による血管収縮の亢進は、受容体刺激を介した血管収縮制御機構が関与していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度までの研究計画に含まれる多くの点については、その知見を得ることが出来ている。特に、糖尿病モデルマウスにおいて、インスリン誘発の血圧上昇現象が再現性良く確認されたことは、本研究の主題となる「インスリン投与を開始した糖尿病患者において、血圧が上昇する傾向がある」という問題を、ヒト対象ではなく糖尿病モデルマウスを用いて近似的に検討する事が可能となることを意味しており、血圧上昇現象の解明を進める上で大きなツールとなる。さらに、インスリン誘発の血圧上昇現象について、血管組織の過収縮が関与しており、糖尿病等で報告されている血管内皮細胞の機能低下よりも、血管平滑筋細胞の収縮亢進が関与していることを明らかとすることができた。 平成30年度においては、糖尿病病態下でのインスリン誘発の血管平滑筋過収縮現象が引き起こされるメカニズムについて解明することを中心とする。さらに、この過収縮現象がどのような受容体刺激を介しているかについても明らかとする。これらにより、過収縮を軽減あるいは正常化するために有効な方法を検索する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、これまでの知見を基に最終的な糖尿病病態下のインスリン誘発血圧上昇現象のメカニズムを解明することに注力する。既に血圧上昇現象が明瞭に認められる実験系を確立する事に成功しており、血管平滑筋組織の過収縮現象が寄与している可能性が高いことから、摘出組織を用いた検討を重ねることにより細胞内の収縮制御因子とその異常を明らかにすることができると考えられる。これらの検討に関して、我々はこれまでにいくつもの成果を挙げてきており、信頼性の高い結果を得る事が出来ると考えている。得られた知見に関しては、可能な限り研究期間中に学術誌への投稿を行う予定である。
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