2015 Fiscal Year Research-status Report
硫化水素由来ポリサルファイドによるTRPA1チャネル活性化機構の解明
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26460352
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
木村 由佳 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所神経薬理研究部, 研究補助員 (60425692)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ポリサルファイド / 硫化水素 / 3メルカプトピルビン酸硫黄転移酵素 / Rhodanese / シグナル分子 / TRPA1 / 酵素的産生 / 脳 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、イオウが複数直鎖状に結合したポリサルファイド(H2Sn、n≧2)が脳内に存在することを見出した。またH2Snには様々な生理作用があり今まで硫化水素(H2S)に起因するとされていた細胞応答の中にはH2Snにより惹起されるものがあり、しかもその作用はH2Sよりはるかに強力であることを最近報告した(Kimura Y et al, FASEB J、2013)。 しかし、各種あるH2Snの中でnがいくつの物質が細胞応答を引き起こすか、またH2Snは酵素により産生されるかについてはわかっていなかった。そのため本年度までにその点を解明した(Kimura Y et al、Scientific Reports 2015)。以下の実験からH2Sn の中では特にH2S3が重要であり、3-mercaptopyruvate sulfurtransferase(3MST)と3MST類似のイオウ転移酵素であるRhodaneseにより脳内で酵素的に産生されることを発見した。1)HPLCおよびLC-MS/MS解析より、H2S3とH2Sが野生型マウス脳から調製した細胞で産生されるが、3MSTノックアウト(KO)マウス脳細胞では産生されない、2)精製した組換え3MSTおよび野生型3MSTを発現させたCOS細胞ライセートでは3-mercaptopyruvate(3MP)からH2S3が産生されるが、3MSTの活性が低下した変異体ではH2S3の産生が低減する、3)H2Sn特異的な蛍光試薬より、H2S3が細胞質に局在する、4)H2S3は3MSTとRhodaneseによりH2Sからも産生される、5)H2S2は脳内にわずかに存在する、H2S5レベルは3MPの有無で変化しない。 以上より生体内にはH2S3、H2S、H2S2、H2S5が存在し、それらが酵素的に産生されることが判明した。このうち特にH2S3が重要で、H2Sとともに生体内シグナル分子として働くことが明らかとなった。 我々はH2Snが今まで見つかっていなかったTRPA1チャネルの内在性agonist候補であることを発見しており(Kimura Y et al, FASEB J、2013)、本研究からH2SnおよびTRPA1チャネルが関与する疾患に対して新規治療標的を提供することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究室では1996年からH2Sの生理作用について多くの研究を重ねてきたが、その後H2Sから生じるH2Snに着目し、H2Sの細胞応答の中には、H2Sn により誘発されるものがあり、その作用はH2Sよりはるかに強力であることを示し、シグナル分子としてのH2Snの重要性を明らかにした(Kimura Y et al, FASEB J、2013)。 本年度はさらに研究を進めてH2Snの中で、H2S、H2S2、H2S3、H2S5が脳細胞に存在し、このうち特にH2S3が重要であることを発見した。また、H2Snが酵素により産生することを見出し、H2Snが内在性のシグナル分子であることを明らかとし、H2Snが関わる疾患に対して新規治療標的を提案した。 研究成果は、日本薬理学会、日本神経科学大会、日本生化学大会において連携研究者木村英雄と合わせて計10件の口演、ポスター発表を行った。連携研究者木村英雄は、このほか招待講演(海外2件、国内1件)、シンポジウムで発表、ワークショップ開催などを行った。このように全体としておおむね順調に研究が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究から、H2Snの生体内での酵素的産生が明らかとなった。そこで次年度では3MSTとRhodanese の活性変化により、H2Snレベルがどう調節されるかを調べる。 1)①3MSTとRhodaneseは酸化ストレスと関わることが知られており、Rhodaneseの発現低下がROSの増加と関連することが臨床的に報告されている(Kruger et al, Clin Biochem 2010)。そこで過酸化水素などで酸化ストレスをかけ酵素量の変化をRNA、タンパク質レベルで調べる。 ②3MSTはダイマーを形成すると活性が低下し、thioredoxinやdithiothreitolなどの還元剤のよりサブユニット間のジスルフィド結合を切断すると酵素活性が上昇する。そこで還元剤の発現量を変化させると酵素活性がどう変化するかを調べる。ウェスタンブロットよりダイマーとモノマーの割合を評価する(既に3MST、Rhodanese抗体所有)。①②の条件下で酵素活性が変化しているとき、H2Snの産生がどう影響されるかをHPLCにより定量する。またLC/MS/MSによりH2S、H2S2、H2S3、H2S5の量比の変化も検討する。 2) 既知の神経伝達物質により3MSTの活性が制御されているかを調べる。マウス脳から細胞懸濁液を調製し、そこに各種神経伝達物質をかけてH2Snレベルがどう変化するかをHPLCにより定量する。同時にグルタチオン、システインレベルも定量し酸化ストレスのかかり方を評価する。3MSTの活性を変える神経伝達物質については、antagonistや3MSTノックアウトマウスの脳細胞で作用が消失するかを調べる。 以上より、TRPA1チャネルの内在性agoinistであるH2Snに対する調節作用の研究を遂行する。
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Causes of Carryover |
本年度は、研究の順番を変えたことにより当初の予想ほど費用が掛からなかった。予備実験が多かったため消耗品などの購入が予想を下回った。外国出張がなかったこと、機器修理費用がかからなかったことからも次年度繰越金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は機器故障がなかったため修理費用が掛からなかったが、次年度はより高い確率で機器修理が生じると予想される。また、本年度は本研究の最終年度であり、研究をまとめるために、キット、抗体、試薬、外注(オリゴ製作、シーケンス)などに多額の出費を予想している。この他、ルーチンで必要な研究消耗品、学会参加費、旅費、論文投稿費などに充当し研究を推進する予定である。
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Research Products
(20 results)
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[Presentation] マウスにおける生理活性物質H2Sの産生経路2016
Author(s)
渋谷典弘, 小池伸, 田中真紀子, 湯浅(石上)磨里, 木村由佳, 小笠原祐樹2, 福井清3, 永原則之, 木村英雄
Organizer
第89回日本薬理学会年会
Place of Presentation
パシフィコ横浜会議センター
Year and Date
2016-03-09 – 2016-03-11
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[Presentation] 生理活性物質硫化水素の産生経路2015
Author(s)
渋谷典弘, 小池伸, 田中真紀子, 湯浅(石上)磨里, 木村由佳, 小笠原祐樹, 福井清, 永原則之, 木村英雄
Organizer
BMB2015
Place of Presentation
神戸ポートアイランド
Year and Date
2015-12-01 – 2015-12-04
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