2014 Fiscal Year Research-status Report
がん細胞ミトコンドリアDNA変異の意義:DNA損傷応答によるHMGA2誘導
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26460399
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
柴沼 質子 昭和大学, 薬学部, 教授 (60245876)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 一憲 昭和大学, 薬学部, 助教 (60349040)
石川 文博 昭和大学, 薬学部, 助教 (60515667)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ミトコンドリア / HMGA2 / E2F1 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん細胞の増殖能維持に働くHMGA2は、がん細胞の中でもミトコンドリア機能が低下している細胞に発現しており、ミトコンドリア機能低下による細胞増殖の抑制を克服する機能を果たしていると想定される。そこで、HMGA2の機能の詳細を理解するために、本年度は、その前提となるミトコンドリア機能の低下による細胞増殖停止機構の解析を主に行った。 乳がん細胞株(MDA-MB-231、MCF7、T47D)を用いて検討したところ、何れの細胞もミトコンドリアの複製/転写を抑制すると、顕著に細胞増殖が抑制された。その際、ミトコンドリア機能として膜電位の低下が確認できた一方、細胞内ATP量は低下していなかった。従って、観察された増殖停止は、ATP量の低下によるものではないと考えられた。 細胞周期の停止時期を調べたところ、MCF7はG0/G1で停止していた。そして、以前の報告と一致して、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子であるp21CIP1とp27KIP1が転写・翻訳レベルで誘導されていた。 一方、MDA-MB-231、T47D細胞は、G2/M期で増殖が停止していた。そこで、ミトコンドリア活性の低下によって誘導されるこの新たなG2/M 停止機構について詳細を検討した。分子レベルの手掛かりとして、DNAマイクロアレイにより遺伝子発現の変化を網羅的に調べたところ、E2F1による転写制御ネットワークが阻害されていることが示唆された。阻害の実態として、細胞周期関連因子の発現を調べたところ、サイクリンA、B1、FOXM1の発現量が特異的に低下していることがわかった。そして、E2F1とFOXM1を同時にノックダウンすると、サイクリンA、B1の発現が低下してミトコンドリア機能不全下と同様にG2/M期で細胞増殖が停止した。 以上より、ミトコンドリア機能が低下したときのG1/S、もしくはG2/Mでの細胞増殖停止メカニズムが明らかとなってきた。HMGA2はこれらの停止機構を標的として抑制することでがん細胞の増殖能の維持に働いていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度、1)HMGA2の新規機能(抗細胞老化機能)について、その標的分子を主に網羅的解析により同定する予定にしていた。しかし、ミトコンドリア機能不全により誘導される細胞増殖抑制機構を解析した結果、網羅的検索を待たずに、HMGA2機能の標的が明らかとなってきた。具体的には、ミトコンドリア機能不全により細胞増殖が顕著に抑制されるが、その原因として、E2F1転写因子ネットワークが阻害されることがわかった。すなわち、HMGA2はこのE2F1関連機能の低下を克服することで、ミトコンドリア機能が低下したがん細胞の増殖能維持に働いている可能性が見出された。 以上のように、今年度の成果により、HMGA2機能の標的がE2F1周辺関連因子の発現、もしくは機能制御に絞られ、当初の目標(HMGA2機能の基盤情報を得る)がおおよそ達成された。しかし、予定していた詳細な分子機構の解析には至らなかった。 一方、2)HMGA2機能と悪性化形質の関連に関して、新たに、FOXM1と協調して肝細胞分化因子HNF4αの発現を抑制していることが示され、新たな知見を加えることができた。また、がん幹細胞形質への関与については、肝細胞がんの幹細胞マーカーであるCD133の発現とHMGA2の発現との関係を肝細胞がん株において調べたが、相関はみられなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
1)HMGA2の新規機能(抗細胞老化機能)について:標的がミトコンドリア機能低下時のE2F1を中心とする細胞周期停止機構であることがわかってきたので、引き続き、ミトコンドリア機能低下による細胞周期停止機構の詳細を検討するとともに、並行して、それらの中からHMGA2機能の標的を同定するために、HMGA2の遺伝子操作により影響をうける具体的経路/分子を探索する。既に、HMGA2のノックダウンにより、ミトコンドリア機能低下時と同様にE2F1自身の発現量がタンパク質レベルで低下することがわかっている。そこで、先ずは、ミトコンドリア機能低下に応答してE2F1のタンパク質の安定性が変化する機構の解明を目指し、それがHMGA2機能の標的である可能性について検討する。Ubiquitin-proteasome系によるE2F1の分解機構に焦点を当てた検討から開始する。 2)HMGA2機能と悪性化形質の関連に関して:HMGA2単独では肝細胞を悪性化させるには不十分で、FOXM1との協調の必要性が明らかとなったので、その詳細を調べる。特に、1)との関連で、ミトコンドリア機能低下時の増殖抑制克服機能へのFOXM1の関与を検討する。 3)ミトコンドリア機能不全下で活性化されているシグナルとしてATM経路の可能性を調べる。活性化体ATMを検出する抗体や特異的阻害剤を用いる。また、新たにミトコンドリア由来の活性酸素によるシグナルの関与が示唆されたので、ATM経路との関係や、ミトコンドリア機能不全に対する細胞応答制御への関わりを調べる。
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Causes of Carryover |
海外の学会での発表を予定していたが、適切な学会が開催されなかった。そのため、予定していた旅費を使用しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度、詳細な分子レベルの解析に入る予定であり、それに伴って昨年度以上に試薬等、物品の購入が必要となる予定である。物品費の補充に充てる予定である。
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