2015 Fiscal Year Research-status Report
がん細胞ミトコンドリアDNA変異の意義:DNA損傷応答によるHMGA2誘導
Project/Area Number |
26460399
|
Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
柴沼 質子 昭和大学, 薬学部, 教授 (60245876)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 一憲 昭和大学, 薬学部, 助教 (60349040)
石川 文博 昭和大学, 薬学部, 助教 (60515667)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 肝細胞がん / ミトコンドリア呼吸鎖活性 / HMGA2 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん細胞で頻繁にみつかるミトコンドリアDNA(D-loop領域)変異の意義について、肝細胞がん(HCC)を対象に、胎児性抗原HMGA2の発現・機能との関係を検討してきた。D-loop領域の変異は、通常、ミトコンドリア機能(呼吸鎖)の低下を引き起こし、その結果、細胞増殖の顕著な抑制を引き起こす。昨年度までの細胞株を用いた結果から、呼吸鎖活性が低いHCC細胞株ではHMGA2が高発現しており、HMGA2がこの増殖能低下の克服に働いていることが示唆された。HMGA2は上皮-間充織転換を誘導する因子でもある。注目すべきことに、HMGA2の発現を低下させるとがん細胞は老化様形態を示して増殖を停止させた。 今年度は、先ず、実際の生体内のがん組織について、細胞株同様にミトコンドリア呼吸鎖の低下例でHMGA2の発現がみられるか、検討した。その結果、腫瘍と周辺の正常部位のペア検体のうち、約60%の腫瘍部位でHMGA2の特異的発現が検出された。このタンパク質は胎児性抗原であり、正常組織では殆ど発現していない。また、ミトコンドリア転写量を比較したところ、58%のペアで正常部位に比べて腫瘍部で転写量が低下していた。さらに、この転写量の減少とHMGA2発現との間に有意な相関関係が存在した。要するに、ミトコンドリア機能(転写)の低下とHMGA2の発現誘導に関して、昨年度までに得られたin vitroの結果をin vivoで裏付けることができた。HMGA2の抗細胞老化機能については、ミトコンドリア機能低下により下方制御されていたE2F1転写ネットワークをHMGA2が再活性化することがわかった。 一方、HMGA2のがん細胞での発現上昇メカニズムに関しては、各種阻害剤、siRNAを用いた検討の結果、DNA損傷応答に働くPI3キナーゼのメンバ―であるATMならびにATRが関与することを確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①ミトコンドリア機能低下によるATM活性化機構の解析:ミトコンドリア機能低下細胞で、ATMとともに、同じくDNA傷害応答を担うPI3キナーゼファミリーであるATRの「発現量」の上昇が観察された。従ってATM/ATRの活性の上昇は、この発現量の上昇によると考えられた。今後、ミトコンドリア機能低下によってATM/ATRの発現が上昇するメカニズムを解析する。 ②ATMによるHMGA2転写誘導機構の解析:乳がん細胞に関する知見から、転写抑制因子ZBRK1の関与を仮定して検討を進めたが、その可能性が否定された。そのため来年度以降は、ATM/ATR下流でHMGA2転写活性化に働く因子を新たに検索、同定し、転写活性化機構の詳細を解析する。 ③HMGA2の新規機能(抗細胞老化機能)の解析:HMGA2は転写制御に関わる転写因子様タンパク質である。そこで、その機能解析のために、ノックダウンした細胞内の発現遺伝子の変化を調べたところ、E2F1転写ネットワーク機能が低下していることがわかった。従って、HMGA2は、ミトコンドリア呼吸鎖活性低下によるE2F1転写ネットワークの下方制御に対し、その克服(再活性化)に働いていることがわかった。具体的には、E2F1の発現量を制御していることが示された。 ④in vivo造腫瘍能/転移能の評価:現在、ノックダウン細胞の移植実験を準備中である。 ⑤普遍性について:HMGA2の高発現は、肝細胞がん以外に、肺がん、膀胱がん等で見られることを把握している。普遍性を調べるために、肺がんについて、現在、細胞株を収集中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
①ミトコンドリア機能低下によるATM活性化機構の解析:27年度の結果を受けて、ATMの活性変化ではなく、発現制御に関する検討を加える。すなわち、ミトコンドリア機能低下によりATMの発現量が増加する機構を解析する。呼吸鎖機能が不全に陥った細胞内でAktが活性化している例が知られている。また、Aktの下流でATM/ATRの転写が促進されることが報告されている。これら知見を参考に、今後、対象としている肝細胞で、ミトコンドリア機能不全によるAktの活性化を確認し、さらにATM/ATR転写制御への関わりを調べる。 ②ATMによるHMGA2転写誘導機構の解析:想定していた仮説が否定されたので、新たな情報を得るため、HMGA2遺伝子上流の転写因子結合配列を検索した。その結果、CCAAT結合タンパク質が重要な役割を担っている可能性が示唆された。今後、ATM/ATR活性による当該転写因子のHMGA2上流への結合促進と転写活性への寄与を調べ、さらにATM/ATRキナーゼによる制御の実態を解析する。 ③HMGA2の新規機能(抗細胞老化機能)の解析:HMGA2によるE2F1転写ネットワーク機能の再活性化は、E2F1タンパク質量の増加によると想定される。そもそもミトコンドリア機能低下細胞内ではE2F1の発現量が低下している。従って、HMGA2の標的は、ミトコンドリア機能低下からE2F1発現抑制に至る経路のいずれかの過程であると考えられる。ミトコンドリア機能によるE2F1発現制御機構を明らかにしつつ、HMGA2の標的を探索する。 ④in vivo造腫瘍能/転移能の評価:HMGA2ノックダウン細胞が樹立できているので、免疫不全マウスの肝臓に移植して、組織学的観察により、増殖・浸潤能を評価する。 ⑤普遍性について:肺癌細胞株について、HCC細胞株同様、ミトコンドリア活性とHMGA2発現の関連性について調べる。
|
Causes of Carryover |
海外での学会発表を予定していたが、適切な機会がなく、予定していた旅費を使用しなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
28年度、分子レベルの解析が本格化するので、試薬の購入に出費が予想される。その補充に充てる予定である。
|