2014 Fiscal Year Research-status Report
グロビン遺伝子スイッチングのエピジェネティック分子基盤
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26460408
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
田中 裕二郎 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (00311613)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | サラセミア / ASH1 / グロビン遺伝子 / ノックアウトマウス / CRISPR/Cas9システム / K562細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) まず、慢性骨髄性白血病由来のK562細胞株を用い、CRISPR/Cas9システムにより34個のクローンから21個のASH1-/-ホモ欠損細胞を樹立した。相同組換えのための鋳型DNAも同時にエレクトロポレーションしており、6個の細胞でホモ接合型組換えを確認した。K562は特に遺伝子組換えが起こりやすいことが知られており、これと符合する結果となった。ただし、オフターゲットも起きやすいため、複数株を解析することが肝要である。次に、野生型K562細胞とASH1欠損細胞を用い、抗ASH1抗体によるChIP-seq解析及びRNA-seq解析のサンプル調整を行った。現在、ASH1標的遺伝子を網羅的に同定するための解析を進めている。
(2) 次年度に予定していたASH1ノックアウトマウスの作成を、予定を繰り上げて行った。N末端の2箇所とSETドメイン内に合計3種類のガイドRNAを作成し、それぞれよりASH1遺伝子変異マウスを樹立した。C57BL/6へバッククロスすると共に、交配によってASH1ホモ欠損マウスを作成したところ、全ての変異マウスで生後1日目に致死性となることが分かった。これはASH1が出生後の生命維持に必須の役割を持つことを意味している。一方、これまでにASH1変異マウスで報告されていた骨格系の異常は認められなかった。次いで、胎生11.5日初期胚の肝臓に於いて、 βグロビン遺伝子座の胎児型及び成体型グロビン遺伝子の発現をリアルタイムPCRにより定量したところ、ASH1欠損胚では成体型グロビンの発現が相対的に低下する傾向が見られた。これはK562細胞でASH1をノックダウンした際の表現型と類似しており、ASH1が成体型グロビン遺伝子の発現を活性化する可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(本年度は、K562細胞株を用いて野生型及びASH1ホモ欠損細胞の比較検討を中心に行う計画で、このうちAH1-ChIP-seq解析、RNA-seq解析の主要な実験は予定通り進めることが出来た。ただし、修飾ヒストンに対する抗体を用いたChIP-seq解析、ASH1複合体の質量分析、3C解析によるASH1の機能解析は次年度に繰越となった。
一方、当初は次年度に中心的に取り組むとしていたASH1ノックアウトマウスの作成が予定よりも順調に進み、2つのナンセンス変異と1つのアミノ酸欠失(メチル化酵素活性不活化を引き起こす)という複数のノックアウトマウスを樹立することが出来た。更に交配によってASH1ホモ欠損マウスを作成し、生後1日で致死性となるという重要な知見を見出した。
一部予定よりも遅れている課題と、予定よりも進んだ課題があり、平均としてはおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) まずK562細胞モデルを用い、繰越となった実験として修飾ヒストンに対する抗体を用いたChIP-seq解析、ASH1複合体の質量分析、3C解析によるASH1の機能解析を行う。
(2) ASH1ノックアウトマウスを用いたグロビン遺伝子スイッチング機構の解析については、サンプル数を増やすこと、これまでに調べた11.5日胚以外にも時系列を追ってリアルタイムPCRによるグロビン遺伝子発現パターンの解析を行うことが優先課題となる。また、ASH1ノックアウトマウスに於いて、βグロビン遺伝子座のクロマチン構造がどのように変化しているか、修飾ヒストンに対する抗体を用いたChIP解析及びDNAメチル化解析によって明らかにする。
(3) サラセミアモデルマウスを作成するため、マウスβグロビン遺伝子座を相同組換えによってヒトβグロビン遺伝子座に置換する方法に関しては、最近CRISPR/Cas9システムに於いてゲノム標的部位と鋳型DNA(ヒトグロビン遺伝子)の双方を、それぞれに対応するガイドRNAによって同時に切断することにより、遺伝子組換え効率が高くなることが報告されている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、本年度に予定していた実験のうち、抗修飾ヒストン抗体を用いたChIP-seq解析、ASH1複合体の質量分析、3C解析が、それぞれ次年度に繰越しとなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰越しとなった分は、抗修飾ヒストン抗体の購入、ChIP-seq解析(情報解析を含む)、ASH1複合体を精製するための細胞培養及び質量分析関連消耗品の購入に充てる。
平成27年度分として請求した分は、既に作成したASH1ノックアウトマウスの維持、及び新たに作成するサラセミアモデルマウスの作成に充てる。
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