2015 Fiscal Year Research-status Report
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26460447
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
中島 典子 国立感染症研究所, 感染病理部, 室長 (60333358)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 重症インフルエンザ / インフルエンザ脳症 / ARDS / サイトカインストーム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、インフルエンザ脳症並びにインフルエンザウイルス重症肺炎の剖検組織を用いて病理組織中のウイルスゲノム、炎症性メデイエーターの発現、毛細血管内皮障害について分子病理学的に解析することでインフルエンザの重症化の機序を明らかにすることを目的とする。本年度は以下の成果を得た。 (1)今シーズンにインフルエンザ脳症疑いで死亡した3例の剖検脳組織を解析した。原因インフルエンザウイルスはそれぞれA/H1N1pdmとB型であった。3例とも脳重量が増加しており、組織像では、脳血管周囲への血漿成分の滲出像などの浮腫像が認められた。1例では、肺重量も増加しており、肺病理像は硝子膜形成を伴うび漫性肺胞障害(DAD)像を呈していた。 (2)H5N1亜型鳥インフルエンザウイルス(H5N1)肺炎に併発したARDSで死亡した小児のホルマリン固定パラフィン包埋肺組織から回収されたH5N1のHA蛋白、NS1蛋白、PB2蛋白の塩基配列を調べたが、ヒト肺組織内での変異はみられず、上気道からの分離株と同じであった。今シーズンのA型インフルエンザの流行株はA/H1N1pdmであったが、H3が流行株であった昨年度にくらべ、東京都では自宅外死亡例が多かった。肺病理像はDADを呈し、剖検肺組織中から検出されたA/H1N1pdmゲノムを解析した結果、ヒト型レセプターへの親和性を示し、肺胞上皮細胞への感染は否定的であったが、免疫組織化学では、非常に少ないがウイルス抗原が肺胞上皮細胞に検出された。 (3)HMGB1はDNA結合蛋白であり有核細胞の核から放出され自然免疫を誘導する後期炎症メディエーターである。一部のインフルエンザ重症肺炎と脳症例で、HMGB1が肺胞上皮細胞やミクログリア、血管内皮細胞の細胞質に検出され、核内から細胞質への移行がみられた。 (4)A/H1N1pdmインフルエンザ関連ARDSの肺電顕像において、基底膜の肥厚と変性、線維化、細胞核の変性、アポトーシス細胞が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
・インフルエンザ脳症例において、血液脳関門(グリア血管複合体)の免疫組織化学的解析が遅れている。質の異なるホルマリン固定パラフィン包埋切片において免疫組織化学で発現量の相違を評価することが困難であることが分かった。
・年度内にインフルエンザ脳症の脳剖検組織で発現が高い炎症性メディエーターをとらえられなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
1.インフルエンザ脳症の病理学的解析:これまでに解析したインフルエンザ脳症死亡例が15例以上になるので臨床病理学的特徴をまとめる。脳浮腫の発症機構については、HMGB1, TLP4など炎症に関する分子の発現を免疫組織化学あるいはin situ hybridization法で解析することを試みる。また脳症例と正常の脳組織の 血液脳関門の構造を電顕で観察することを試みる。 2.インフルエンザ重症肺障害の病理解析:2009年に出現したA/H1N1pdmウイルスはパンデミック終息以降も流行を繰り返している。季節性インフルエンザウイルスとなったA/H1N1pdmはウイルスゲノム解析ではヒト型レセプターに親和性が強く、ウイルス性肺炎は起こしにくいことが予想される。しかしながら2015/2016年シーズンにおいては、A/H1N1pdm感染を伴う自宅死亡例が多くみられた。肺病理像は滲出期のび漫性肺胞障害(DAD)を呈しており、発熱から5日以内に死亡していた。A/H1N1pdmウイルス抗原は非常に少ないが、肺胞上皮細胞にも検出された。季節性インフルエンザとなったA/H1N1pdm感染に併発する急性呼吸速迫症候群の剖検組織の肺胞上皮障害と血管内皮傷害について病理学的に解析することを試みる。 3.電顕でインフルエンザ重症肺炎(ARDS)死亡例の肺胞上皮細胞と血管内皮細胞からなる肺胞血液関門の電子顕微鏡を用いた形態観察を行う。特にインフルエンザウイルス性肺炎を伴った場合と伴わない場合で上皮と内皮細胞の傷害に差がみられるかを観察する。
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Causes of Carryover |
年度末納品などにかかる支払いが平成28年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。
平成27年度分の未使用分が生じた理由については、‘旅費’のうち、予定していた米国の研究所(CDC)への訪問を取りやめたこと、‘その他’のうち、投稿採択された論文の投稿料・別刷代が無料であったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の通り、平成27年度支出分の計上。 旅費については、8月にインフルエンザ国際会議に参加し、10月にウイルス学会に参加することが決定している。物品費については、in situ Hybridizationのプローブならびに免疫組織化学用の抗体を購入予定である。またそのほかリアルタイムRT-PCR、電顕解析に必要な消耗品を購入予定である。
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[Journal Article] Adenovirus Type 7 Pneumonia in Children Who Died from Measles-Associated Pneumonia, Hanoi, Vietnam, 20142016
Author(s)
Hai le T, Thach HN, Tuan TA, Nam DH, Dien TM, Sato Y, Kumasaka T, Suzuki T, Hanaoka N, Fujimoto T, Katano H, Hasegawa H, Kawachi S, Nakajima N.
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Journal Title
Emerging Infectious Diseases
Volume: 22
Pages: 687-690
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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