2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26460537
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
花輪 智子 杏林大学, 医学部, 講師 (80255405)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
神谷 茂 杏林大学, 医学部, 教授 (10177587)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 百日咳菌 / 緊縮応答 / ppGpp / 3型分泌装置 / 栄養枯渇 / グルタミン酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該研究は百日咳菌の病原性発現制御における緊縮応答の役割を明らかにするものである。これまで当研究室ではグルタミン酸枯渇により3型分泌装置(T3SS)の発現が誘発することを明らかにした(Hanawa et al.,2015)。さらに平成27年度にはppGppの定量系を構築し、グルタミン酸枯渇が百日咳菌細胞内ppGpp濃度を約10倍増加させることを明らかにした。このことは、ppGppの欠損により3型分泌装置(T3SS)の発現が顕著に低下するばかりでなく、ppGppの蓄積により亢進することを示唆している。 また、アミノ酸枯渇でもT3SSの発現が誘発されるが、グルタミン酸枯渇による誘発の方が、より顕著であることも見出している。しかしながら今回、カザミノ酸非添加培地を用いた培養によるアミノ酸枯渇細菌内でも約10倍の上昇がみられたことから、グルタミン酸枯渇によるT3SS発現量の亢進にはppGpp以外の因子が関与するものと考えられた。 ppGpp欠損株(PMK21)を用いてppGppのマクロファージへの感染に与える影響を検討したところ、マクロファージ系培養細胞株J774感染時、貪食率は野生株と同等であったのに対して16時間後の生残率はppGpp欠損により顕著に低下した。さらにppGppの蓄積を誘発するグルタミン酸枯渇では、感染後16時間後におけるマクロファージ内生存率が約3倍亢進した。これらの結果は、ppGppがマクロファージ内殺菌能抵抗性に関与していることを示唆している。 一方、ppGppとグルタミン酸枯渇による応答を解析する目的でプロテオーム解析を行ったところ、グルタミン酸枯渇によりリボゾームタンパク質、ストレスシャペロン(GroEL、DnaKJ、Clp等)の量が顕著に増加していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
緊縮応答による百日咳菌病原性発現制御における役割を明らかにすることを目的とした本研究において、そのモデュレーターであるppGppの定量系確立は実施計画の中で重要な位置を占めている。百日咳菌のギ酸抽出物を平成26年度の当該助成金で購入した機器を用いて凍結乾燥し、再懸濁したサンプルを限外濾過などの処理後した後、越智らの方法(Ochi et al., 1986)を参考に陰イオンカラム(SAX)を用いてヌクレオチドを分離した。この保持時間とスペクトラムからppGppのピークを同定し、そのピーク面積からppGppの定量を行うことができた。さらにその手法を用いて栄養が十分に残存している培養液中百日咳菌細胞と比較して、グルタミン酸およびアミノ酸枯渇によりppGppの蓄積が生じていることを明らかにした。 一方、百日咳菌とマクロファージとの相互作用を検討する実験においては、百日咳菌をMOI=100でマクロファージに感染させ、細胞内に取り込まれた生菌数を測定したところ、およそ1つの細胞に1つの細菌が貪食されることが明らかとなった。その後、16時間後にはマクロファージ内の生残菌数は貪食された菌数の約5%にまで減少し、24時間後には検出限界以下となることを明らかにした。これらの百日咳菌のマクロファージ内動態に関する情報は、百日咳菌のマクロファージ感染実験における基礎的データとなる。さらにppGpp欠損およびグルタミン酸枯渇による貪食能および生残率への影響を検討した。 ppGpp欠損および亢進によるタンパク質発現への影響についてはプロテオーム解析を実施した。その結果、今回用いた手法では細胞内に微量存在するタンパク質量の比較が難しいことが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度に確立したppGpp定量系は有用であるが、カラム損傷の頻度が高いことから改良が必要であると考えている。生細胞内でppGppはは環境の変化により数分以内に濃度が変化することが知られている。従って、培養後、迅速にギ酸処理を行い、安定化させることが必要である。また、ppGppはギ酸中で不安定なことから、抽出後、凍結乾燥によってギ酸を除去するまでの時間を最小限にすることも重要である。ppGppの精製度を上昇させるために、凍結乾燥物を再懸濁した後、夾雑物を除去する措置が必要があると考えており、現在カートリッジ式のカラムの利用を検討している。 グルタミン酸枯渇とppGppの関連を明らかにする目的で行ったプロテオーム解析については、今回の手法では細胞内の微量タンパク質の量的変化を検出することが困難であることが明らかとなった。従って、これに代わって、現在ppGpp合成欠損変異株と野生株の網羅的転写解析を行うことを検討している。手法としてはRNAseqを用い、発現が変化する遺伝子を網羅的に解析し、ppGppレギュロンを明らかにする。 また、DksA はppGppと共同でRNA polymeraseに作用し、転写発現を制御していることが報告されている。このdksA遺伝子欠損変異株を用いてT3SSの発現、マクロファージ内生残率亢進におけるDksAの関与を検討する。現在、この変異株の作成を進めており、平成28年度に性状の解析を行なう。 さらにppGpp、DksA欠損変異株感染後のマクロファージからのサイトカイン発現量を定量し、免疫系を制御するとされる百日咳菌のT3SSの作用発現における緊縮応答の役割を明らかにする。
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Research Products
(5 results)