2015 Fiscal Year Research-status Report
コレラ菌のVBNC状態から培養可能状態への転換に関する研究
Project/Area Number |
26460543
|
Research Institution | National Center for Global Health and Medicine |
Principal Investigator |
濱端 崇 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, その他 (40311427)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | コレラ菌 / VBNC / 培養可能状態 / カタラーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
コレラ菌は低栄養・低温下では「生きているが培養できない(Viable but nonculturable; VBNC)」状態となり長く生残し、好適な環境条件が整うとまた増殖を始めることが知られており、これが季節的流行を繰り返す一つの大きな要因と考えられている。本研究では、公衆衛生学的に重要な意味をもつコレラ菌のVBNC状態から培養可能状態への転換機構に焦点を当て、その分子レベルおよび遺伝子レベルでの解明を目的とする。 平成26年度の本研究により、申請者らが哺乳動物由来の培養細胞から分離した、VBNC状態のコレラ菌を培養可能状態に転換する因子(FCVC、Factor converting VBNC to culturable)はカタラーゼであることがわかった。本年度は研究計画どおり、VBNC状態のコレラ菌が培養可能状態へと転換する際の鍵となる遺伝子を同定するため、VBNC化コレラ菌にカタラーゼを作用させ、培養可能状態へと転換する過程の遺伝子発現プロファイルの経時的変化をRNAマイクロアレイを用いて解析した。 VBNC化コレラ菌をアルカリペプトン水(コレラ菌選択用高栄養培地)中でカタラーゼにより培養可能へ転換すると、最初の2時間は発現増加を示す遺伝子は無く、いくつかの遺伝子で急激な発現低下が見られた。これらはVBNC状態の維持に必要で、増殖可能な環境を感知しオフになったと考えられた。その後菌の増殖に比例しリボソームタンパク質が急激に発現上昇を示した。一方、無栄養培地(PBS)中でVBNC化コレラ菌をカタラーゼにより転換すると、最初の1時間で発現が10倍以上に増加したものだけで37遺伝子、5倍以上の増加だと103遺伝子と、高栄養条件下での転換とは全く異なる結果であった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
VBNC化コレラ菌を遠心集菌し、アルカリペプトン水に懸濁させた後、カタラーゼを加えて37℃に保温し、1時間毎にTCBS寒天培地への塗布およびRNA抽出用のサンプリングを行った。TCBSを37℃で一晩保温したところ、カタラーゼ添加後1hからコロニーが出現し始め、その後は対数的増殖を示した。サンプリングした菌液からRNAを抽出し純度を解析したところ、0-1hでは分解産物も含むと思われる雑多な種類のRNAが多く、菌の増殖に従ってリボソームRNAのピークが明確になった。0hでもRNA量としては増殖後と同程度存在しており、これはVBNC状態でも転写が行われていることを示唆し、既報の文献報告とも一致する。このRNAを用いマイクロアレイ解析を行った結果、0-2hでいくつかの遺伝子が急激な発現低下を示した。これらの中にはストレス関連遺伝子の転写調節因子、脂肪酸酸化関連因子、またいくつかの機能不明タンパク(hypothetical protein)が含まれていた。3h以降は培養可能に転換した菌が増殖したため、リポソームタンパク関連遺伝子が急激に増加していた。 次に菌の増殖とVBNCからの転換による遺伝子発現を切り離すため、無栄養であるPBS中でカタラーゼを作用させ同様の実験を行った。培養可能コレラ菌はPBS中では増殖しないことは前もって確認した。その結果、1hで発現が10倍以上に増加したものだけで37遺伝子、5倍以上の増加だと103遺伝子であった。2hでは10倍以上で65遺伝子、5倍以上で159遺伝子が増加を示した。5h以降は高栄養培地中での転換と同様、リボソームタンパク関連遺伝子が多数増加し始めた。菌は実際には増殖していなくても、増殖に必要な遺伝子発現は開始するものと考えられた。計画では本年度中にVBNCから培養可能への転換因子を同定する予定であったが、候補遺伝子が未だ絞り込めていないため、進捗はやや遅れていると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
上述したようにVBNCコレラ菌にカタラーゼを作用させる際の培地が高栄養か無栄養かで発現する遺伝子が異なる可能性がある。本研究では「37℃、高栄養条件だけでは増殖しないが、カタラーゼを存在させると増殖する」菌の状態をVBNCと定義しており、また高栄養下での転換ではカタラーゼ添加直後に発現上昇した遺伝子が見られなかったため、今後は無栄養条件下でカタラーゼにより培養可能へと転換する菌を対象とし、その転換を担う遺伝子を突き止めることに注力する。したがって具体的には、この条件で現在得られている多くの候補遺伝子の中からより重要なものを絞り込む必要があると考える。このため、少なくともあと1回はマイクロアレイ解析を行い、カタラーゼ存在下および非存在下で発現する遺伝子の差を精査し、カタラーゼの存在に特異的に反応し発現が増加する遺伝子の絞り込みを行う。その後siRNA等によりVBNC化したコレラ菌のカタラーゼによる転換が阻害されるかを確認し、当該遺伝子のノックアウト株の作製および解析を行いたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
本年度は2週間ごとにコレラ菌を4℃に保存し、したがって多少のずれはあるもののほぼ2週間ごとにVBNC化したコレラ菌のロットを得ることができた。しかし、特に無栄養条件化での培養可能状態への転換を行う際に、カタラーゼ存在下および非存在下での増殖の差が顕著、つまりカタラーゼ特異的に培養可能状態への転換が見られるロットがなかなか得られず、遠心集菌の条件、カタラーゼを作用させる温度、カタラーゼの濃度および保存条件、容器の形状等の条件検討等の微調整に時間を要した。これによりマイクロアレイ実験とその解析が遅れてしまい、候補遺伝子の絞り込みが次年度にずれ込むこととなってしまった。現在は好適なロットがいくつか取れ、そのRNAも保存してあるので実験の進捗は可能である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度繰越した金額は、研究計画に照らし次年度必要となるマイクロアレイ解析およびsiRNAによる遺伝子発現阻害実験に充当したいと考えている。また次年度は最終年度であるので、本年度と同様、研究進捗の加速を図るため短期で研究補助員を雇用し、その人件費・謝金に充てる可能性もある。その他の研究費については次年度分で請求した助成金の範囲で十分研究を遂行できると考える。
|